第4章 雪原の皇子
実をいうと、彼らは前回の露天風呂のハプニングから一切言葉を交わしていなかった。唯でさえ気まずいのに、妙な距離感があれ以来できてしまっている。
だが、それでも何か話しかけなければ前には進まないか。花織がちらりと風丸の方へと視線を向ける。すると頬杖をついて窓の外を見ていたらしい彼とばっちり目が合った。どうやら花織が動きを見せたのを見て、こちらに視線を向けたらしい。ふたりが互いにまたも気恥ずかしさを感じて視線を逸らそうとしたその時だった。
「うわあっ!!」
「きゃっ」
がくっとまるで段差から落ちた時のような衝撃がキャラバンに走った。車体も僅かにだが傾いている様に感じられる。どうやら雪溜まりにタイヤを取られたらしい。アクセルを踏み込んでも前に進めないようだ。古株が外を見てくる、と言ってシートベルトを外す。
「駄目だよ」
先ほどの少年がぽつりと呟いた。その声が古株の足を止める。
「山オヤジが来るよ」
「山オヤジ?」
円堂が少年の言葉を問い返したその時だった。バンっ!!と凄い音がして窓が叩かれる。そのシルエットから、窓を叩いたのは大きな獣だということが推測された。
……もしかして、熊?キャラバンに乗っている人間すべての脳裏にそれがよぎった。刹那グラグラとキャラバン内が揺すられるように動く、酷い揺れだ。きっと立ってはいられない。
「……っ」
キャラバン内には悲鳴が飛び交っている。シートの真ん中に座っていた花織はあまりの不安定さに思わず隣の彼に縋るように手を触れた。……きっと、無意識のうちに彼ならば助けてくれると思ったのだろう。この緊急事態に花織の身体はきっと意識とは別に彼に助けを求めていたのだ。それとも心のどこかで彼なら自分を守ってくれるとわかっていたからかもしれない。
「……!」
花織の腹部と頭部に何かが添えられた。それは強く花織の身体を抱き込んで花織の身体に覆いかぶさる。花織は固く目を瞑っていた。突然の出来事に思考が付いて行かず、誰かが自分を守ってくれていることにすら気が付いていなかった。だが、ようやく揺れが治まり始めると花織はゆっくりと目を開ける。