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嫉恋

第4章 雪原の皇子




花織が差し出したのは、先刻話題に上がった懐炉だった。それを花織は半ば強引に少年の手に握らせ、自らの両手で暖めるようにする。そして鬼道の方を見上げ、言葉を掛けた。

「鬼道さん、脇のホルダーにココア入ってませんか?」
「ん、ああ。これか?」

鬼道がちらりと脇を見て、飲み物を置くためのホルダーから200mlサイズのペットボトルを花織に手渡した。中身は花織が言ったとおりココアだ。懐炉を購入したサービスエリアで一緒に購入しておいたものである、自らが暖を取るために。

花織は鬼道からココアを受け取るとそれをそのまま少年に差し出した。

「よかったらこれもどうぞ。口は付けてませんからご心配なく」
「……これ、君のじゃ」

震えた声で絞り出すように少年が言う。花織はふっと優しく笑いかけ、腰を上げる。そして気にしないでください、と笑って席を離れた。

花織は性質としては優しく、気遣いはするが、それは仲間内だけであって基本的に外野に手をさしのべることは少ない。普段なら自分の私物を懐炉はともかく、ココアまで差し出したりはしないだろう。だが、今回は例外だった。少年が今にも倒れそうな顔色をしていたからだ。

このまま放っておくと低体温になってしまうのではないだろうか。そう思って多少心配になったから暖を取るための準備をしたのだ。実際、そこに突っ立っていただけならばここまで手をさしのべることはなかったはずだ。

そんなことよりも、今は花織の座る席が先決だ。花織が座らなければキャラバンは出発しない。どこか空いている席はないだろうか……、花織はキャラバン内を見回す。そして染岡の横……、豪炎寺が座っていたその場所に空席があることに気が付いた。

少し花織は迷う。染岡の隣に座るのが一番いいのだろうが、それは間接的に豪炎寺の席を潰す、ということにはならないだろうか。今、染岡は豪炎寺の離脱に敏感になっている。あの席をあえて空席にしておきたいと望むかもしれない。その席を花織が仮にでも座ってしまうと彼の機嫌を損ねることになりはしないだろうか。
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