第3章 一つの決着
花織が監督に対して感じていることを口にする。こういうことを花織が話せるのはきっと鬼道だけだろう。鬼道は花織の意見を偏見なく聞いてくれるはずだ、そして誰にも口外したりしない。彼はそう断言できるほど、花織にとって信用に足る人物だった。
「……お前の言うことにも一理ある。だが、そう判断するのはまだ早いはずだ。もしかして監督は俺たちの自主性を育て、己で判断を下せるように成長をさせたいのかもしれないだろう」
「鬼道さんは監督の考えを深読みしすぎですよ。……きっと、鬼道さんの解釈は監督の説明の無さを都合よく考えすぎなんです」
少しむくれた様子で花織がふいとそっぽを向く。鬼道は子供っぽい彼女の所作に苦笑しながら花織の手をそっと握った。花織が急に手に触れた温かさに振り返る。
「お前は監督のことをあまりよく思っていないようだな」
「ええ、ちょっと。……ああいう人は苦手なんです。無感情で……、まるでみんなに対しては興味が無いみたい。私が感情的すぎるのかもしれませんけど……」
「大人しいように見えて、お前は意外と何事にも懸命だからな」
練習にも参加したがり、誰かのために貢献したがる。本当に花織は優しい女だと思った。花織は誰かに共感することに優れている人間だから、監督のように無情に決断を下せる人物が理解しがたいのかもしれない。優しい花織の傍にいる事は心地いい、だが同時に優しすぎる彼女は逆に残酷でもあった。特に今の鬼道にとっては。
「だが、少しは監督を信じろ。……大丈夫だ、響木監督が信頼して俺たちを任せた人だぞ」
鬼道の言葉には言いようのない説得力があった。花織はふっと微笑み鬼道を見つめる。だがその瞳には少し悲しげな色があった。鬼道はそこまで鈍くない、彼女が今思っていることを、とても敏感に感じ取っていた。