第3章 一つの決着
「きゃっ」
段差に足をかけた途端、花織は足を滑らせてしまった。ふわっと足下が不安定になる。花織は一瞬で覚悟をし、ギュウと目を瞑った。だが、花織の動向を彼が見ていなかったわけはない。彼女のすぐ傍、湯へ降りるための段差付近にいた風丸が、素早く立ち上がり花織の身体を支えた。
「……っ」
ばしゃばしゃ、と水音が立つ。だが、花織は転ばなかった。おそるおそる花織が目を開けてみると、恋いこがれる彼の横顔が花織の眼前にあった。どきっと花織の胸が高鳴る。
「一郎太くん……」
花織が転び掛けたことに関しては数人しか気が付いていなかったようだ。だが気が付いた数人の人物はその見事な救出劇に、おお、と声を上げる。
「大丈夫か?」
「う、うん……、ありがとう」
花織はふう、吐息をつく。だがそこで気が付いた、花織は自分の気にしている部分を自分が彼に押しつけるようにして立っていたことに。花織が硬直していることに疑問を感じ、風丸が花織の肩を揺する。そして、彼自身もようやく気が付いたようだ。
「……!!」
さっき小耳に挟んだ話の主題である花織の胸が、自分の胸元に押し当てられていることに。
「――――っ!、すまん!!」
「ご、ごめんねっ、じゃあ!」
どちらとも無く慌てて身体を離す。花織はどたばたと洗い場の方へ顔を真っ赤にして掛けていった。風丸の方もすっかり茹で蛸のように顔を赤くしてじゃぼっと水の中へとへたり込む。事情を全く知らず、ただ風丸が花織を助けただけだと思った秋は"ナイスキャッチ、風丸君"と親指を立てて湯から上がっていった。
「ラッキースケベ、か」
「しみじみ呟くなよ、一之瀬……」
花織と春奈の話を聞き、かつただいまの光景を見ていた鬼道を除く唯一の二人は、何とも中学生らしい言葉を交わし合うのだった。