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嫉恋

第3章 一つの決着




始めはライバルだと意識していたからこそ、風丸は知っている。花織が風丸の速さに対して初めは嫉妬していたことに。

その羨望と嫉妬が変化し、彼の興味を持った行く末が花織の恋心だ。あの頃の花織は鬼道に注目される存在であるために誰よりも優れたスピードを欲していた。現在の彼女にその傾向はないが、それは風丸に引き継がれつつあった。

誰よりも速く、彼女から羨望の眼差しを受けるのは自分だけでいい。

付き合っていた頃、彼女は風丸のスピードを誇りにしてくれていた。誰よりも速く風丸がサッカーのフィールドを駆けるのが好きだと言ってくれていた。それを揺らがせたくない。

「一郎太くん」

突然聞こえた声に風丸は足を止めた。ボールは滑車と共に坂道を下って行ってしまったが、あとで取りに行けばいいだろう。風丸は肩で息をしながら振り返る。そこに立っていたのは花織だった。いつものハーフパンツスタイルの体操着の花織。

「あんまりに戻ってこないから心配しちゃった。……秋ちゃんたちとおにぎりを作ったの、少し休憩しない?」
「ああ……」

風丸は自分の考えに耽っていたせいで気が付かなかったが、数十分前に秋がホイッスルで休憩の合図を出しているのだ。他のメンバーはすでに戻ってきているのに彼だけは戻ってこなかった。そのため、秋の個人的意見で花織に白羽の矢が立ったのである。もっとも、花織も彼に話したいことがあったから都合がよかった。

「これ、使って。……行こう?皆のところに」
「……ありがとう、花織」

花織が差し出したタオルを風丸は受け取る。なんだろうか、この空気は。重苦しいような、緊張に満ちているような妙な空気だ。歩き始めた二人の間に会話は無く、ただ沈黙だけが存在している。何と言っても、まだよりは戻していないのだ。

「あの……」
「どうした?」
「ううん。……練習、よっぽど頑張ってるんだろうなって思って。……走ってるときも何だか怖いくらい集中してたみたいだし」

沈黙に耐えかねて花織が呟く。その口調は彼に対しての好意が見え隠れしていた。だが、同時に少し心配している様子もあった。なにしろ、あんな顔をして走っている彼を見たのが初めてだったからだ。
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