第3章 一つの決着
――――花織。
僅かに鬼道は花織の方へと顔を寄せる。ほんのりと花織の髪からは彼女のシャンプーの香が薫った。ああ、本当に自分はこの女が好きなのだと思う。鬼道はすっかり冴えてしまった頭で再び思考を巡らせた。
好きだった、一年も前からずっと、花織だけを見ていた。花織もそうだった、先日までは。鬼道はもはや悟っていた。彼女の気持ちが自分になくなったことなど、もうきっと随分前から見ないようにしていただけで鬼道自身、分かっていたのだろう。
その現実を今日の試合でまざまざと見せつけられ、やはりと鬼道は思わずにはいられなかった。花織は風丸を見ている、だからこそあんなプレーができるのだろう。だが、いつからこんな風になってしまったんだろうか。
花織の気持ちが自分にないことが、堪らなく悔しい。だが、花織の気持ちを引き離したのはきっと俺なのだと分かっていた。あんな言葉さえ口にしなければ、きっとこの女は自分のものであったのに。
「……ん」
もぞ、と花織が動いて鬼道の胸に顔を埋める。その時に上がった彼女の寝言は鬼道の心をますます揺さぶる。愛らしいと思う、今の花織との一対一の関係に不満はないが、彼女の恋心が自分に向けられていたあの頃の関係へ戻れたらと何度願ったことか。そうすれば、きっと彼女を突き放すような言葉を鬼道は封じるだろう。
鬼道は目を伏せ、花織の温もりをジャージ越しに感じる。そっと花織の手に自分の手を添えてみた。こんなことをしても彼女は起きないのだから、きっと自分は彼女の信頼を得られているのだろう。だが、信頼が得られていても彼女の鬼道への恋心は欠片も残っていないかもしれない。それは花織でなければその真意はわかりなどしないが、鬼道はきっとそうだと思っている。