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嫉恋

第20章 エピローグ




あの日俺は、俺自身にとって少々残酷なお前の願いを結局引き受けた。……お前の想いを俺は悟り、俺の想いをお前は知っていた。だからこの役を俺にひとりで頼みに来たのだとすぐに分かった。良い機会かもしれない、そう思いお前の幸せを祝福する言葉を昨日の夜中まで掛かって練り続けた。そして長い間抱き続けていた、お前を想い慕う気持ちを断ち切る覚悟を決めた。

今朝、お前と、そのお前の隣に立ち続けるアイツの祝福の為と礼服を身に着け、ネクタイを締めた時にはこの日を迎えた覚悟は出来ていたつもりだった。だがお前の晴れ姿を、そして誰よりも幸せそうに笑顔を浮かべるお前を見ていると言いようのない、言い表せない気持ちが俺の中に込み上げたのだ。これ以上この気持ちを持って、あの場所にいることなど今の俺にはできなかった。

あんなに覚悟を決めたつもりだった。だが俺自身どうにもできない、断ち切れない未練が心の底には在ったのだろう。やはり自分の情けなさを笑うしかない。今までずっと愛し続けた女の幸せを素直に祝福できないとは自分でも思いもしなかった。だが本当にそれだけ、ここまで来ても諦め切れないほど強く、長い月日の間、俺はお前を想い続けていたのだ。最終的にお前が選んだ、アイツよりもずっと前から。

俺は今でもお前に心惹かれた、もう十年以上前の瞬間を鮮明に覚えている。まだ帝国学園に入学したてだった頃のことだ。いつものようにユニフォームに着替えた俺はピッチに向かおうとしていた所だった。サッカーグラウンドの半分ほどしかない練習場で、お前の走っている姿を見た。長い黒髪を靡かせて美しく、だが力強く地面を蹴って、何物も寄せ付けないような速さでフィールドを駆けぬけていた。綺麗だ、その感情以外を感じる事ができなくて俺はお前に見惚れていた。あの瞬間から俺はお前に心惹かれていた。

お前と初めて話した時の事もはっきりと覚えている。初めてお前を見た日からそう時間も立たない数日後のことだった。お前は俺がピッチの外へ追いかけてきたボールを抱えて立ち尽くしていた。やはり美しい黒髪を靡かせて、不思議そうに自分の元へ転がってきたボールを見つめていた。俺が名前を呼べばお前は笑った、その笑顔がどれだけ俺の心に響いただろう。先日、あれほど凛とした様子だった少女がこんなに愛らしく笑うのだと衝撃を受けたのだったか。
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