第20章 エピローグ
カップを置き、腕を組みながら呟く。冗談めかして吐いた未練がましい言葉は、決して冗談などではなかった。俺ならばきっとアイツよりもお前を幸せにできる確信があった。お前は困ったように笑って俺を見つめていた。その瞳は揺らぎもせず、かつての愛情さえ僅かに映すこともない。ただ静かに一点を見ている目だった。
「……そうでしょうね。鬼道さんは、きっと彼よりも私を幸せにしてくださると思います」
くすくす、と笑ってお前が口元を左手で隠す。お前の左手の薬指に飾られた永遠を象徴する石が、俺を嘲笑うように光を受けて煌めく。
「……鬼道さんなら、私の些細な変化に気づいてくれると思いますし、たぶん彼よりも頼りになります。きっと日本代表として飛び回る彼よりも、鬼道さんは甘えたな私の傍にいてくれるでしょう。……それに鬼道さん子供の面倒見るのも得意そうですから」
きっとその未来は幸せだろう。
俺はお前の言葉にずきずきという胸の痛みを感じながらもそう思った。十年、お前を想い続けても気持ちに変化などなかった。お前の隣にいるのが俺だったら、と何度夢を描いたことだろうか。俺がお前の恋人だったら、お前の夫であったら……。
俺とお前の間に子供が生まれ、お前の子の父となることができたらどんなに幸せだろう。
お前も俺と同じように簡単に、もしもの世界を思い浮かべる。楽しそうな表情でお前は俺との未来を思い描く。恐らく冗談で言っているとはいえ、それだけすらすらと仮の未来を考えることができているのに、お前は俺を振り返らない。
「でも、私は今が十分に幸せです。……彼の隣を走れるなら、それだけで構わないから」
微笑みながらお前は俺の言葉に返事をする。だがその瞳には俺の対する情が含まれているのを俺ははっきりと悟った。……お前は俺の真意に気づき、そしてもうすでに決まりきっている返答した。……お前とは長い付き合いだ、おそらく始めから俺の言葉を予感していたのだろう。だから恋人の意向を無視しても今日一人でここへ来たのだ。長い間、十年以上も続いた誰かの初恋の終止符を打つために。
「鬼道さん、折り入って頼みがあります」
さらりと、長い黒髪が揺れる。俺が美しさに心惹かれる彼女の長い髪。決して俺の為に伸ばされたわけではない、お前の想い。
「友人代表のスピーチ、お願いできませんか」
