第18章 風を愛する者へ
「私は強さなんてどうでもいいよ。弱くたって一郎太くんと一緒にサッカーができれば、隣を走ることができればそれでいい」
花織が風丸を見据えて静かに告げる。だが風丸の方も納得がいかなかった。弱ければ何も守れない、戦力にもならない。ただ永遠に辛酸を舐めさせられるだけ。風丸は強くなりたかった、自分自身のアイデンティティを守るため、他の誰でもない花織の為に。
「……でも、それじゃお前を守れなかった。エイリア学園を倒すこともできず、ただ負けを重ねるだけ。それに、お前が好いてくれたスピードを維持できなかったら意味がないんだ」
「私は、足が速いから一郎太くんを好きになったんじゃないよ」
花織は息をついてじっと風丸を見る。彼女の瞳は達観したかのようだった、落ち着きを払って堂々としている。もちろん、彼女は彼の一部分として彼の足の速さも彼の良い点として認め、好きだと思っている。だが彼に興味を持つきっかけだとはいえ、足が速いから彼を好きになったわけではない。
花織が風丸を好いた理由は、彼がどこまでも優しい人だったからだ。女子である花織をよきライバルとして認め、共に走ってくれた。鬼道が好きだからと一度は風丸を拒絶した花織に手を差し伸べ、忘れさせるからと傍にいてくれた。彼はいつだって花織を想って優しくしてくれた。それだけではない。
風丸は、廃部になりそうなサッカー部を助けたいと言い、花織の反対も振り切ってサッカー部に助っ人として参加した。帝国との試合では身を挺して円堂を庇った。面倒見がよく、後輩たちにも慕われていた。誰にでも優しく接することのできるその彼の人柄に何より花織は惹かれたのだ。
「私は一郎太くんの速さだけを好きになったんじゃない。私が貴方を好きになったのは、貴方がどんな時でも私に優しくしてくれたから。廃部になりそうなサッカー部を救うため、なんていって助っ人に行ってしまうような仲間思いの人だったからだよ。私は真面目で努力家で、仲間思いで……。そして私と一緒に走ってくれた風丸一郎太が好き」
花織は静かな声で宣言すると同時に堪えられず涙を零した。彼女の目から零れた一筋の涙が彼女の頬を伝っていく。彼女は一度目を伏せ、再び風丸を目に映す。その瞳には彼に対する怒りが浮かんでいた。