第16章 交錯する想い
「士郎くん」
どき、っと大きく心臓が音を立てた。自分の名前に彼は振り返る。彼をこうして名前で呼ぶ人は今はひとりしかいない。きっと僕を探してきてくれたのだろうと思った。そこには優しい笑顔を浮かべた花織の姿があった。
「こんなところでどうしたの?」
平然を装っているが、彼女は少し汗をかいているようだ。きっと吹雪を探して走り回っていたのだろう。この人はやっぱり嘘偽りなく、僕のことを心配してくれているのかもしれないと思った。花織さん、と縋る様に彼女の名前を呼んでみる。
「僕にはアツヤが必要なんだ」
吹雪が潤んだ瞳を花織に向ける。花織は真面目な顔をして、ちょっと座ろうかと吹雪をベンチへ促した。花織は吹雪をベンチに掛けさせると覗き込むようにして彼の話を聞く。吹雪は俯いてぽつりと呟いた。
「一人ぼっちが怖かったんだ」
あの時のことを今でも覚えている。気が付けば真っ暗な闇の中に放りこまれていた。泣きじゃくって身もがいて、次に目が覚めた時は病院だった。でも僕の傍には誰もいなかった、お父さんもお母さんも、アツヤも。
「雪崩は一瞬で僕をひとりぼっちにした。……僕は寂しくて寂しくてどうにかなりそうだった。それで強くならなきゃって思ったんだ」
あの日の記憶は一層覚えている。雪の降る日だった、サッカーの試合の後お父さんの運転する車で家に帰ろうとしていた。お父さんは僕たちふたりが揃えば完璧だと言った。僕たちもそう思った。
「二人が揃えばもっと強くなれる。もっと強くなって完璧になれる」
唱えるように吹雪が言葉を紡ぐ。完璧、という言葉に花織が眉を顰めた。吹雪はずっとこの言葉に執着している。イプシロン改との試合の時にも言っていた気がする。そしてこの間の話でも。
「だから僕にはアツヤが必要だった。アイツがいれば弱い自分を変えられると思った。……その時あの声が聞こえてきたんだ」