第16章 交錯する想い
吹雪は静かに自分のうちに秘めている気持ちを語る。彼はアツヤになりたかった。元々吹雪が雷門へ勧誘されたのはストライカーとしての力を認められたからだ。だからシュートを決められなければ自分がここに居る意味は無かった。今でもそう思っている、チームにとって完璧な存在でなければ僕は存在している意味がない。だからアツヤになりたかった、今までずっと敗れることの無いシュートを持っていたアツヤに。
ただその一方でアツヤにすべてを委ねるのは怖かった。アツヤになることで、本当の吹雪士郎がどこかへ行ってしまうような気がした。でも皆が必要とするのはアツヤだった、僕はアツヤになろうとした。そのときのことだ。
「君の声が、僕を呼んだ。君に名前を呼ばれるたびに僕はアツヤの中から呼び起された。……君が笑い掛けてくれて、僕を呼んでくれることは、僕が求められてるのかもしれないっていう一縷の希望だった。僕が僕でいることを許されているような気がした」
アツヤになろうと決めた朝、花織が自分の手を握って士郎、と呼んでくれた。だから吹雪はアツヤにはなりきれなかった。士郎で居てもいいのかもしれない。そんな希望が彼の中に芽生えた。だが一方で花織の悲しげな微笑に気が付いた。士郎にもアツヤにもすぐに分かった。花織が自分の奥に誰を見つめているのか。
「でも、アツヤの笑う声が聞こえた。君が本当に心配しているのは僕じゃないって。心の底では君も選手としてアツヤを必要としているんだって」
吹雪はマフラーを握る。花織がどんな顔をして聞いているのかを見るのが怖くて下を向いた。
「チームに必要なのはアツヤだった。でもそのアツヤも完璧じゃなかった。……僕は必要のない人間だ」
吹雪は自分を縛る言葉を繰り返す。
「僕はサッカーができない。完璧じゃない、このチームに必要ない。なのに君は僕に今でも笑い掛けてくれる。あんなことを言ったのに……」
どうして、花織に問いかけるその声は消えるほど小さかった。二人の間に沈黙が流れる。吹雪は花織の方を見ることができなかった。