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嫉恋

第15章 砕氷の時




「士郎くん……!!」

花織は思わず立ち上がった。声もなく吹雪がピッチに崩れ落ちたのが見えた。嫌な予感が全身を駆ける。円堂が、鬼道がそしてフィールドにいる選手たちが吹雪の元へ駆け寄る。だが吹雪は返事をしないようだ。円堂が肩を揺すぶっても反応が無いように見える。

「監督!これ以上は吹雪くんが……」

秋が監督に訴えかける。花織はズボンを握る。これ以上は吹雪くんが、と秋は言った。でも違うのではないか、これ以上どころかもうすでに彼の心は崩壊してしまっているかもしれない。チームが恐れていた自体がついに来てしまったのではないか、花織は息を呑む。流石に監督もこれ以上吹雪に無理をさせる気はないようで選手交代を叫んだ。

「選手交代!目金くん、吹雪くんと変わりなさい」
「は、はい!」

監督は吹雪の代わりに花織ではなく、目金を呼んだ。花織は妥当だと思った。単純な実力で言えば目金よりは花織の方がピッチで動くことができる。圧倒的に運動神経に優れているのは花織だ。だがフォワードの経験はほとんどない、そして目金は元々フォワード。どちらを起用するかははっきりしている。

「月島さん」
「……!」

突然監督に名を呼ばれて花織は監督を見上げる。監督はいつものクールな様子に見えたが、少し表情からは焦りが伺えるように思えた。

「吹雪くんをお願い」

監督が花織に命じる、花織は黙ってうなずいた。そして両脇から吹雪を抱え、ベンチへと連れてきた鬼道と円堂が彼を座らせるのを見届けた。花織は屈んで吹雪の顔を覗きこむ。思わず息が詰まった。

死んだような顔をしている、この表現にこれほど相応しい顔があるだろうか。そんな表情を吹雪はしていた。瞳は光なく、何も映していない。焦点も合わなかった。士郎くん、と小声で吹雪を呼んでみても返事はない。

「吹雪、ここで見ていてくれ。俺たちみんなでお前の分まで戦い抜く」

円堂が吹雪を見ながら宣言する。花織は吹雪の両手をそっと自分の手で包んだ。いつになく冷たい吹雪の手。まるで死んでしまったように……。

「士郎くん……」

花織は吹雪の手を握る。花織にはそれしかできなかった。
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