第14章 喪失の余韻
翌日、綱海からの願いで大海原中学サッカー部との練習試合が行われた。何と綱海は円堂たちのサッカーに惹かれ、サッカー部に入部したのらしい。海の上に建つ大海原中学、綺麗な海に囲まれる自然一杯の学校だった。
大海原サッカー部はノリの良いサッカー部でハイなテンションに雷門は置いてけぼりだった。シュートを止められようが、シュートを決められようがイェーイと声を上げて喜ぶその様にマネージャー陣は若干引いていた。夏未などは途中で帰ろうとしたくらいだ。でも陽花戸中学と試合をしたときのようにエイリアのことを忘れられる楽しい試合だった。
しかしやはりここでも浮かない顔をしている人物がいる。もちろん吹雪士郎だ。
今日の試合で吹雪は一度もシュートを打たなかった。あの時の試合以来、吹雪が練習でもシュートを打つ姿はあまりみない。以前に比べて病んでいるふうではなくなったが、きっと今も悩み続けていることは間違いないだろう。
吹雪は自分がどうあるべきかを悩んでいた。アツヤになろうと考えている、アツヤになってしまえば自分はストライカーとしての役目が果たせる。しかしそれは怖いのだ、吹雪士郎が消えてしまうような気がしてアツヤにすべてを明け渡すことができない。今まではアツヤに委ねることは簡単だったのに、今はアツヤを目覚めさせることすら怖かった。
上手くアツヤを呼び出してアツヤを演じている時も、時折我に返されることがある。花織に名前を呼ばれたときだ。士郎君、と自分の名前を呼ぶ優しい声は士郎の人格を引きずり出した。士郎はその声の心地よさに自分が必要とされる安心感を求める。
(花織さんは僕を、吹雪士郎を呼んでくれている)
そう思い込むことで士郎を保とうとする。だがその自分に言い聞かせる声に対して、厳しいアツヤの声が聞こえた。
(はあ?あの女にも別にお前は必要とされてねえよ。どうせ試合で必要とされているのはフォワードとしての俺の力さ)
無慈悲なアツヤの言葉に士郎は目を瞑って肩を震わせた。彼女は優しい人だから、とアツヤに言い聞かせる。彼女は士郎、と呼んでくれる。紛れもない自分の名前だ。