第13章 絶望に染まる
えっ、と花織が困惑の声を上げた。どうしてそこに吹雪が出てくるのかがわからない。花織には理解できなかったが、風丸はそれが理由で彼女は自分に着いてこないのだと思い込んでいた。
今の風丸の心の中には負の感情が滾るように溢れかえっていた。……風丸は先刻の吹雪の悩みに気づいていたという花織の言葉を聞いた。それだけ、吹雪を見ていたということなんだろう。それと彼女がこの頃吹雪と一緒に居たことを思いだす。偶然や隠し事が重なり、彼の疑惑は大きくなっていた。
「吹雪が心配だから俺とは一緒に来れないんだろ。……俺、わかってるから。花織が吹雪と隠れて何かをしてたこと。……もちろん花織のことを信じているさ。でも花織は、優しいチームのマネージャーだもんな」
「一郎太くん……、何を言ってるの?」
小さなすれ違いがここで積もり積もって大きなものとなる。風丸はもう聞く耳を持っていなかった。一番大切なはずの花織の言葉を信じられないほど、彼の精神は崩壊しかかっていた。
「ねえ、一郎太くん……!」
「もう、放って置いてくれ」
縋るように花織が再び風丸の手を掴もうとする。だが風丸は今度こそそれを強く振り払った。花織は目を大きく見開いてその場に硬直した。風丸は花織を見据える。冷めた目といつになく冷たい声で彼は花織に言い捨てた。
「花織に、俺の気持ちは分からないよ」
花織はもう何も言えなかった。今の風丸の目と声、そして言葉は何より彼女にとって衝撃的で、絶望的だった。その表情に風丸の絶望と脱力の中で静かに一つの記憶が蘇った。彼女を一番傷つけた時の記憶。あの時の花織もこんな顔をしていた。もう二度と、花織にあんな顔をさせないと決心したのに……。今の俺にはその決心を守る力も、花織を守れる力もない。
花織がその場に崩れ落ちる。風丸はそんな花織に背を向けて歩き出した。花織は呆然とした目で風丸の背中を見つめる。もう、彼を引き留める術も、彼を引き留められるような言葉も何も残ってはいなかった。
花織の瞳から静かに涙が伝い落ちる。いかないで、という最後の懇願は風丸に届くことは無かった。