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嫉恋

第12章 心の均衡




吹雪士郎にはアツヤという名前の弟がいた。ジュニアチームで士郎と共にサッカーをしていた弟だ。士郎がボールを奪い、アツヤが決める。完璧なディフェンスフォワードコンビだったそうだ。小学生チームに属していながら彼らの名前は有名だったらしい。

だがある時事故が起こった。サッカーの試合が終わった後、車で家に帰る途中雪崩に巻き込まれたのだ。運よく車から放り出された士郎だけが助かり、弟のアツヤも両親も彼はその事故で亡くしてしまったのだという。

その事故をきっかけにして吹雪の中にはもう一人の人格が生まれた、弟のアツヤの人格だ。人は大きなショックを受けると稀ではあるが人格が分離することがあるらしい。吹雪はそうなった、彼の中にもう一人の吹雪、吹雪アツヤが生まれた。

「それじゃあもしかして、エターナルブリザードは……」
「アツヤくんの必殺技よ」

一之瀬が話の中で悟った疑問の答えは、チーム全員に衝撃と罪悪感を植え付けるには十分だった。

「でも、本当にそんなことできるんスか?二つの人格を使い分けるなんて……」
「難しいでしょうね。だから吹雪くんはエイリア学園との過酷な戦いで微妙な心のバランスが崩れてしまったのかもしれない」

淡々と瞳子が述べる。

「崩れてしまった……」
「ええ」

端的に、他人事のように返答をした瞳子に、秋が瞳を潤ませて振り返った。その瞳には明らかに瞳子に対する非難が含まれていた。

「ええ、って……、そんな。だったらどうして吹雪くんをチームに入れたんですか!?だって、監督は知っていたんですよね?吹雪くんの過去に何があったか、だったら今日みたいなことが起こるかもしれないってわかってたはずじゃないですか!?」
「!?」

秋はこぶしを握って瞳子に怒りをぶつける。秋の言葉は正論だった。

「なのにどうして吹雪くんを?……エイリア学園に勝つためですか?エイリア学園に勝てれば吹雪くんがどうなってもいいんですか!?」

秋の言葉は瞳子を動揺させるに十分だった。いつもクールな瞳子の表情は自分が犯した失態に今気づいたように申し訳なさげだった。未だ怒りが収まらない様子の秋を一之瀬が止める。だが瞳子は毅然とした表情を取り戻し、冷酷に言葉を残して立ち去って行った。

「それが私の使命です」
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