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嫉恋

第12章 心の均衡




吹雪にはどれだけ練習しても自分の一番の長所であるスピードで劣っている。花織にとって一番の存在ではあれていない。吹雪に出会って風丸は己の限界を知った、内心悔しくて悔しくて堪らなかった。今までは誰よりも自分が早い存在で在れたのに。

「……そんなことはないさ」

風丸は花織の言葉を否定した。花織がえ?と声を上げて風丸を振り返る。風丸はタオルで口元を覆い、俯いていた。花織は風丸を見つめ彼の言葉を待つ。彼は静かな声で自分の考えを語った。

「俺のスピードじゃ、イプシロンの奴らを振り切れない。もっと速くならないと……、もっと」
「一郎太くん……」

今度は花織が心配そうに風丸の顔を覗きこんだ。そっと風丸の肩に手を触れる。風丸はタオルを膝に置いて花織をじっと見つめた。自分にとって今一番大切な人、彼女を守る力が自分にはない。どうすれば力を得られるのだろう。

――――神のアクアがあれば。

時折そんなことを考えた。初めて思いついたのはそれこそ、吹雪と出会った時だった。風丸は本当に自分のスピードが誰かに劣るということが悔しかったのだ。神のアクアがあれば。次第にそんなふうに考える回数は増えて行った。エイリア学園を倒すためなら、使っても許されるのではないだろうか。アレを使えば自分は誰よりも速くなれる。吹雪よりも。

努力は才能には適わない、もうそれを知ってしまった。越えられない壁という物があるのだと。

「練習しなきゃな、もっと。奴らに勝つためにも」

練習も、もしかして無駄かもしれない。風丸は自分の言葉に否定の気持ちを感じるようになっていた。今まで以上に、キラキラしている円堂の言葉を底抜けに信じられない様に感じていた。だが、そんな様子を見せれば花織は酷く心配するだろうと思った。現に先刻の言葉ですら花織は自分に心配そうな顔を向けるのだから。花織にそんな弱い自分を見せたくはない。

「頑張るのはいいことだけど……。無茶はしないでね、何かあったら相談に乗るから」
「……ああ」

だから風丸は平静を装う。花織の前ではずっと、自分が崩壊するその時まで。
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