第12章 心の均衡
「練習に付き合ってくれてありがとう。やっぱり私、一郎太くんと練習するのが一番好きだよ」
「……そっか」
照れたように風丸が頭に手をやる。彼女とのその言葉が風丸は嬉しかった。彼も、彼女に一度明言したことがあるが、花織との練習が好きだったからだ。花織はクス、と笑ったがすぐに俯く。髪を結んでいる為、彼女の表情は隠れることなく、風丸に見えた。彼女はドリンクボトルを握り、少し寂しげな表情を見せた。
「今日一緒に練習できてよかった。……最近はずっと苦しい試合ばっかりだったから。イプシロンとの二戦も、真帝国学園との試合も。楽しいサッカーができてなくて」
「……花織?」
風丸が花織の顔を覗きこむ。花織は言葉を続けた。
「だから今日の練習試合、一郎太くんが凄く楽しそうで嬉しかった。だから一郎太くんとサッカーがしたいなって思ったんだ」
久しぶりに見た、あんな風に風丸が圧倒的なスピードで風を纏う姿を。そして今日、一緒に走ってみて実感した。風丸は以前よりも益々速くなっている。着実に彼は練習を重ねることで強くなっている。花織が到底たどり着けないレベルまで。花織はそれを彼の才能だと思った。彼はそれを自覚していないのだが。
「やっぱり一緒に走るとわかるね、一郎太くんがどんどんレベルアップしてるの。私ももっと頑張らないと置いてかれちゃう」
どんどんレベルアップしている、その言葉に風丸はふっと顔を顰め、タオルで顔を覆い隠した。花織は本当にそう思っているのだろうか。風丸は自分が満足のいくレベルアップをしていない。エイリア学園の連中の方が自分よりも速い、吹雪の方が自分より勝っている。そんな状況にあるのに……。
風丸は速さに関してのこだわりがあった。誰よりも速い存在でいたかった、特に花織の前では。吹雪が現れた時、風丸は吹雪に嫉妬した。花織に関連することではなく、単純に吹雪のスピードに嫉妬したのだ。それでも初めは努力をすれば彼を超せると思った。しかし今ではそれも無理だと思うようになった。