第11章 不穏な空気
パアン、と何かを叩くような音が響いた。花織はびくりと肩を震わせる、どうやら吹雪が正面の鏡に手を突いたようだった。洗面台の鏡に映る吹雪は苦しそうに顔を歪めている。いったい何に苦しんでいるのだろうか、花織は覚悟を決めて中に入る吹雪に声を掛ける。
「吹雪くん」
トイレの中に花織の声は良く響いた。吹雪がハッとして入り口を振り返る。
「……花織さん」
「吹雪くん、どうしたの?何かあったの?」
花織さん、と自分を呼んだその声にひとまず花織は安心した。今の吹雪は試合中の吹雪ではないようだ。花織は続けて吹雪に問いかける。吹雪はその問いに答えあぐねているようだった。それを察して花織は吹雪に提案する。
「とりあえず出てきてくれないかな。私、中には入れないから……」
花織がそういうと吹雪は俯き気味にトイレから出てきた。その表情は俯いていてわからなかったが、明らかに不安げで苦しげなのは明白だった。花織は吹雪の顔を覗きこもうとする。吹雪はふいとそっぽを向いた。
「最近、吹雪くん元気ないね。何かあった?……私で良ければ話を聞くよ?」
優しく花織が吹雪に声を掛ける。吹雪はゆっくりと顔を上げ、花織を子犬の様な目で見つめた。
月島花織、彼女は吹雪にとって他とは違う女性に思えた。白恋で出会った時から単純に可愛くて優しい人だとは思っていた。仲良くなりたい、可能ならば自分の特別な存在になればいいのに。そんな中学生らしい単純な恋心位には彼氏のいる花織を想っていた。