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嫉恋

第11章 不穏な空気




長い沈黙が走る。吹雪の手がゆっくりと壁から離れ、降りていく。花織はじっと俯く吹雪を見つめていた。

「…………花織さん」

ようやく吹雪が顔を上げる。いつも通りの灰色がかった深緑色の吹雪の瞳、そして花織を呼ぶ声と呼び方。いつもの吹雪だ。吹雪はじっと花織を見つめている。花織はいつもの吹雪に戻ったことに安堵したが、吹雪の視線にたじろいだ。

「ふ、吹雪くん?」
「花織さん……、君は」

吹雪は花織を縋る様な目で見た。じっと花織を見つめて悲しげな表情を浮かべる。何かを花織に訴えかけるような瞳だった。

「ううん、何でもないんだ。……僕はもう少し練習するよ、先に戻ってて」

ふらり、と吹雪がボールを拾おうと花織に背を向けようとする。花織はハッとなって吹雪の腕を掴んだ。元々は彼の無理な練習を止めに来たのだ。このまま練習を続けさせるわけにはいかない。

「もう日付も変わっちゃったから休まないと。吹雪くん、また明日にしようよ。そんなに焦ってても良くないよ」
「でも……」

吹雪が眉根を下げて呟く。花織は手を緩めなかった。彼を止めるのはマネージャーとしての自分の役割だと思った。先ほどは吹雪の剣幕に怯んでしまったが、ここで譲ることはできない。選手一人一人がチームにとって何よりも大事だからだ。

「もちろん、吹雪くんのことは頼りにしてるよ。でも、私は吹雪くんの身体の方が心配だから。もうシャワーを浴びて休もう?」
「花織、さん……」
「一緒に戻ろう?吹雪くん。私、吹雪くんが準備できるまで待ってるから」

吹雪が花織の名前を呼ぶ。花織は吹雪の手を引いた。無理に彼を練習所から引っ張りだしてシャワールームと更衣室へ向かう。吹雪はじっと花織の横顔を見つめている。その瞳には花織以外の人物は映っていない。

「……優しいね、花織さん」
「え?」
「僕は……」

花織が吹雪を振り返る。どうしたの、と柔らかく微笑みかければ吹雪も何となく微笑んで見せた。その瞳からはやはり花織に対する特別な感情が汲み取れる。だが花織はそれに気づいてはいない。彼女も風丸と同じで自分に向けられる好意には疎いのだ。
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