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嫉恋

第11章 不穏な空気




今度は少し大きな声で彼を呼ぶ。すると彼は花織の声に集中を乱されたのか、蹴られたボールが大きくゴールを外れた。花織は不安を表情に宿した。吹雪の足が止まる。一瞬の静寂がそこに訪れた。

「吹雪くん、もう遅いから。休んだ方がいいと思う……、っ!」

ぎろり、と吹雪の鋭い目が花織を睨んだ。花織はいつもの吹雪らしからぬ眼光に心臓が音を立てたのを察した。花織は身体を縮める。吹雪は何も言わずに俯き、花織の傍へと歩み寄った。花織は一歩後ずさったが、それ以上は下がることができなかった。

「ふ、吹雪く……」

躊躇いながら花織が呼んだ彼の名前は、吹雪が彼女の横の壁に手を叩きつけた音に掻き消された。花織は身を竦める。ふわり、と彼の汗の香りがした。吹雪は爛々としたオレンジ色の瞳で花織を睨み付ける。

「お前には関係ない。……俺に関わるんじゃねえ」

花織はその瞳にぞくり、と背筋に冷たいものが駆ける感覚を感じたが、次に直感的に思った疑問が彼女の恐怖を増長させた。

彼は吹雪ではない。少なくとも花織の知る吹雪士郎ではない、と思う。

直感ではあるが花織はそう思った。というのにも理由がいくつかある。一つは声が違う、もちろん吹雪の声だと認識できるがいつもよりも幾分低い。それに自身のことを"俺"と呼び、荒々しい口調をしていた。普段の吹雪は穏やかな口調で、自身のことを"僕"と呼ぶはずだ。そしていつもなら彼は花織のことを"お前"とは呼びはしない。"花織さん"、もしくは"君"と彼は花織を呼んでいた。

そして何より、違うと思ったのは瞳の色だ。今の吹雪の瞳は普段話をする時の吹雪の瞳の色と違う。いつもの吹雪は落ち着いた深緑色をしている。今の明るいオレンジ色の瞳は、試合中テンションが上がった時に時々見える吹雪の目だ。初めて会った時から彼の人格変化には疑問を抱いていた。車のハンドルを握ることで人格が変わる人物がいるように、サッカーをすることで人格が変わる人もいるのではないかと。

「貴方……、いつもの吹雪くんじゃない。サッカーをしてる時の吹雪くん……」

震えた声で花織が問いかける。吹雪の目が驚きに見開かれたが、すぐに無表情になって俯いた。
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