第11章 不穏な空気
秋は円堂が好きだ。それでも一之瀬の想いは揺らがないのだからきっとリカが彼の心に触れることはできないのだろう。それを思うと花織はどうにも切なく感じてしまう。花織の今も、色々な人の気持ちを犠牲にしてここに在る。我を通すために他の誰かの気持ちを振り切ってきた。本当は全員の気持ちが実ればいいと思うのに。
「それはそうと花織、ちゃんと風丸と仲直りした?」
「あ、そういえば、俺も気になってたんだよな。風丸のやつ、練習の時かなり殺気立ってたし」
一之瀬が話を変えるために花織に尋ねた言葉に、土門も思い出すように言った。花織は困ったように笑ってその場を誤魔化そうとする。その態度からは彼女がきちんと風丸と話ができていないのが簡単に悟ることができる。
「まだ……。何だか話しかけ辛くて。一郎太くん、いつもと少し雰囲気が違うの。……やっぱり怒ってた?」
「俺たちと話してる時は普通だったけどな。……まあ、それなりに怒ってるような感じはあるな。たまにめちゃくちゃ怖い顔してる時あったし」
「そっか……」
謝ろう、話しをしようとは常々思っている。だが食事の時も自由時間も彼に話しかける隙がない。それは花織が彼に負い目を感じているせいもあるかもしれないが、何となく避けられているような気もしていた。
「今日の花織と鬼道のやり取りは不味かったと思う。……風丸って花織のこと本当に好きだからさ、ワザと他の奴の衣服を身につけたりするのはダメだよ。特に、君が以前想いを寄せていた鬼道のはね」
「うん。……そうだね、私が一郎太くんの立場でも嫌だと思う。分かってはいたんだけど」
いつも自分が落ち込んでいる時、悩んでいる時は瞬時に自分の気持ちを察して心配してくれるくせに、今回に限って自分の気持ちに気づいてくれない彼にムッとして思わず取ってしまった行動。これがここまで尾を引くなんて思っていなかった。初めは風丸の方に非があったのかもしれないが、今では自分の行動がどれだけ風丸の気に障るか自覚している分花織の方が非が大きい。もっとも、自覚していないのもどうかと思うが。