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嫉恋

第10章 戦士の休息




「一郎太くん?」
「梳いていい、俺の髪でよかったらいくらでも」

そっぽを向いて風丸が俯く。ギャラリーの多いこの状況に顔はリンゴのように赤くなっていた。恥ずかしい、どうしてチームメイトの前でこんなことをしなければならないのだろう。だがこのまま拒否を続ければ彼らは強引に、面白がって花織に自分たちの髪を梳かせようとするに違いない。それだけは許せなかった。

「いいの……?」
「ああ」

花織が恐々と問い掛ければ風丸は即答した。花織はそっと風丸の髪を一房取り上げて櫛を当てる。さらりと解れの無い髪は櫛に引っかかることなく落ちて行った。その様子を見てお幸せに、と一之瀬と土門が自分の席へと戻っていく。鬼道もいつの間にか姿を消していた。絶対に風丸をおもちゃにして遊んでいただけに違いない行動だ。

「……」

だが思ったよりも花織に髪を触られるのは心地よい。彼女に自分の髪を触れられている、という事実には胸が高鳴った。しかしそれよりも彼女の手から感じる温かさへの安堵の方が大きい。目を閉じて彼女のやりたいように髪を梳かせる。

「一郎太くんの髪、凄く綺麗だね」
「え?」

まるで絹のようだ、と花織は髪を梳きながら思っていた。全然櫛に引っかかる様な感じはないし、つやつやとしていてキューティクルが整っているのが良くわかる髪だ。櫛を通すたびにシャンプーの良い香りもする、風丸の匂いだ。

「私、一郎太くんの髪も好きだよ」
「そ、そうか……」

照れたように風丸は口籠る。でも花織の髪の方が綺麗だ、と風丸は内心思っていた。美しい黒い髪、初めて走る姿を見た時から印象的だった。切ってしまったことを未だに惜しいと思う。自分と御揃いだった長い髪。

「御揃いにできるように、私も頑張るね」

花織が心を読んだかのように風丸が考えていたことに対する発言をする。風丸は目を見開いたが、嬉しそうな表情を隠してああ、と返答した。彼女が約束をちゃんと覚えてくれていることが嬉しくてたまらない。風丸は花織に髪を梳かれながら早くその時が来ればいい、と思う。

静かな朝、互いのことが好きで堪らないふたりのやり取りであった。

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