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嫉恋

第9章 精神の崩落




その言葉には焦りと力という物に対する執着が感じられた。彼の声色から花織は以前、北海道で彼と円堂が話していた時のことを思いだす。神のアクアがあれば……、彼はそう言っていた。あの時は円堂の説得に納得したようだったが、今また戦力が落ちていること、イプシロンという新しい敵が現れたことで再びその考えが再び浮かんだのかもしれない。

実際、風丸は内心そう思っていた。神のアクアがあれば、と思った。手早いパワーアップができればと思っていた。彼は先日の話を花織に聞かれていたとは知らない。だからこそ花織の前ではその言葉は口にしなかった。そんなことを口にすることで花織に軽蔑されることを恐れていた。

「一郎太くん」

花織が自分の手で彼の頬を包み込む。風丸は突然のことにどきっとして髪を揺らした。じわじわと自分の頬が赤くなるのが分かる。彼は気恥ずかしさの為に彼女から目を逸らしたかったが、優しく自分を見上げる花織の視線から逃れることができなかった。

「一朝一夕で急激にパワーアップする方法なんてないよ。皆、今までずっと地道に努力して、少しずつ強くなってきた。それで十分だよ、そうやって弱小サッカー部からフットボールフロンティア優勝校にまで上り詰めたんだから」

花織が風丸の頬を撫でる。今度は黙って風丸が花織の話を聞いていた。

「……だから、焦らなくて大丈夫だよ。ちゃんと努力を重ねていけば、いつか絶対にエイリア学園に勝てる」
「花織……」
「もしも不安で堪らないなら、私でよければいくらでも練習に付き合うよ。一緒に強くなっていこう?」

ね、と一心に風丸を見上げ、髪を揺らす花織の身体を風丸は強く掻き抱いた。花織の言葉は嬉しかった、自分を理解しようと花織が必死に自分の意を汲んでくれたのがわかったからだ。だが同時に苦しくもあった。彼女に対してこんなに気を遣わせなければならない自分が不甲斐ない。そして自分とは違って前を向いていられる花織が、この頃眩しくて仕方がない円堂に被る様な気がした。
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