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嫉恋

第9章 精神の崩落




花織は風丸に向かって自分の不安な感情を隠して笑って見せる。風丸がさらりと髪を揺らして花織から視線を逸らした。キャラバンに背を預け視線はどこか遠くを見つめている。花織は彼の口から言葉が告げられるのを黙って待った。

「……何でもない、ただ考え事をしていたんだ」
「考え事?」

風丸の言葉は真実でも偽りでもなかった。風丸は考え事をしていた。だがそれは、彼自身の悩みに起因するもので、実際"何でもない"などという言葉で片付けられるようなものではなかった。

――――染岡がいなくなった。

雷門中サッカー部を円堂と同じ頃から支えてきた、きっと豪炎寺が入部してからは誰よりも努力を重ねてきた仲間。風丸は染岡の血の滲むような努力を重ねる姿を、誰よりもエースストライカーという座に拘り部を思う気持ちをもうずっと前から知っていた。同学年の仲間として、一年も前からサッカー部に所属しているある意味先輩として、染岡のことは円堂とは違う意味で尊敬していた。

その染岡が離脱した。理由は仲間を庇って怪我をしたから、その怪我を彼の精神力と根性で悪化させたからだ。風丸はこの事実を少し歪んだ形で解釈していた。

選手として存在価値がなくなってしまえば、容赦なく遺棄される。今まで積み重ねてきた努力など無駄、力がなければ去るのみだ。

そして、そうまでしてもエイリア学園に勝てる気がしない。自分にも、自分以外の人間にもエイリア学園と対等に渡り合えるような力はないと思った。だからますます思うようになった。――――力が欲しい、と。

「大したことじゃない。……暗くなるから早く帰ろう」

風丸は自分の本心を包み隠し、お茶を濁した。彼は花織に自分の本心を語る気は無かった。花織には自分の弱い本心を知られたくないのだ。知られてしまえば、彼女に嫌われてしまうかもしれない。情けない男だと思われ、愛想を尽かされてしまうかもしれない。

風丸はもはや自分の本心を花織に語ることができない状態になっていた。自分の内面を知れば花織はどう思うだろう。いつからかは分からないがそんな感情が彼の中を徐々に支配し始めている。
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