第9章 精神の崩落
「円堂、お前だって分かるだろ?染岡は最初から雷門サッカー部を支えてきた、仲間なんだ!!」
「一郎太くん……」
花織が彼の肩に触れる。染岡に抜けられると技術の面でもメンタル面でも大きく影響が出るのはわかっている。でもそれだけではない、どうして彼はこんなに苛立っているの?風丸はちらりと花織を振り返った。その目には言いようのない、今まで見たことの無い様な色を映している。
「仲間だからこそよ」
瞳子が静かに言った。
「彼はきっと、チームの為に無理をする。そうなれば皆が彼を気遣って満足に戦うことができなくなるわ。」
「でも!!」
それでも諦めようとせず、食って掛かろうとする風丸の声を遮ったのは染岡だった。自分の拳をベンチに叩きつけ、風丸のことを制止させる。
「もういい……、風丸。悔しいけど監督の言うとおりだ、仕方ねえよ。……吹雪、雷門のストライカー任せたぜ!」
悔しそうに一瞬だけ染岡は俯く。だがすぐに顔を上げ、笑顔を見せた。それがチームの皆にとっては痛々しいように思える。彼は誰よりもストライカーという地位に誇りを持っていた。その彼がこんな強がり方を見せるのだから。
「……ああ」
吹雪がぎこちなく笑って染岡の言葉に答える。だがチームの空気はまるでお通夜だった。染岡の離脱に対するショックが大きすぎて誰もが言葉を発せずにいる。染岡は無理におちゃらけた空気に持っていこうと殊更に明るい声を出した。
「何だよみんな、そんな顔すんな!一時撤退ってやつだ。またすぐに戻ってくる!」
男らしい、頼もしい言葉だ。花織は彼が抜けることはチームにとって大きな損害だと思った。花織と彼は特別親しいわけではない。どちらかと言えば風丸が親しくしているから、一年生などに比べれば少しは話をするという程度だ。でも彼のことを人一倍努力家として、兄貴の様な存在として尊敬している。だから本心を言ってしまえば彼に離脱してほしくはない。彼はチームにとって大きな影響を与える人だろうと思うからだ。
そして花織の考えは外れてはいない。染岡の離脱により、チームが少しずつ崩れ始めるのを今は誰も悟ることは無かった。