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嫉恋

第9章 精神の崩落




「……一郎太くん?」

聞きなれた声が自分の名を呼ぶ。キャラバンの後部側、そこに風丸はいたのだが声を掛けられびくりと肩を揺らした。驚いて振り返ってみると、不思議そうな顔をした花織が自分の方を覗き込んでいた。

「っ、花織?」
「どうしたの、こんなところで……。もうご飯食べ終わった?」

なんてことない様子で花織が風丸に問いかける。それより鬼道はどうしたのだろうか、花織はひとりなのか?風丸はそれが気に掛かっていた。

「いや、まだだ。……花織、鬼道と話してたんじゃないのか?」
「うん、でも鬼道さんは皆のところに戻ったよ。もしかして鬼道さんに用だったの?」

風丸が何を勘ぐっているのか、花織は気づいていないらしい。それどころか勘繰られていることに気が付いているのか、それとも気にしていないのか。これだけ花織が風丸の言動に不思議そうなのは何もやましいことはしていないからなのだろうか。花織のことは好きなのだが、こういう所を知るのは難しいと思う。

「いや、別に鬼道に用はない。花織がまだ食べてないからさ、待っていようと思ったんだ」

咄嗟に風丸が花織に都合の良い嘘をつく。だが花織はその嘘を嬉しそうに受け取ってくれた。笑顔を浮かべてそっか、と風丸の手を取る。

「ありがとう。じゃあ一緒に戻ろう?早く戻らないと片づけられちゃうかもしれないから」
「そうだな」

風丸は花織の手を握って複雑な気持ちに追いやられる。花織が素直に向けてくれる自分への好意が薄れていないことに安堵しながらも、いつまで彼女が自分を好いてくれるのだろうかという不安が募る。

「花織」
「ん?どうしたの、一郎太くん?」

さらりと黒髪を揺らして花織が自分の方に視線を向けてくれる。彼女がもしも俺に失望すればこの優しい視線を向けてくれることは無くなるのだろうか。そんな不安を胸に感じながらもなんでもないよ、と風丸はその場を誤魔化すのであった。
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