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嫉恋

第9章 精神の崩落




「影山……、影山影山影山ッ!!」
「鬼道さん……っ。落ち着いてください、大丈夫ですから」

宥めるように花織が鬼道の背中を撫ぜた。するとようやく鬼道は花織から身体を離す。彼は花織の肩を掴んで花織の顔をじっと見つめた。まるで花織の瞳の中にいる自分を覗き込んでいるようだった。

「アイツは……、俺を自分が手掛けた最高の作品だと言った……」
「作品……」

花織が復唱してみれば鬼道は苦々しく顔を歪める。赤い瞳が悔しげに顰められた。

「確かに俺は幼い頃からアイツにサッカーを教え込まれてきた。……だが俺はもうアイツの操り人形じゃない。……それなのに」

視線を逸らしながら鬼道が呟くように言った、花織の肩を掴む手に力が籠る。よほど影山の言葉は鬼道の心を蝕むようだ。彼の手は震えるほど強く花織の肩を掴む。花織はそっとその手に片手ずつ触れ、彼の手を自分から引きはがすと鬼道の手を両手で包む。

「有人さんは有人さんです。……私は知ってます、貴方が自分の意思で影山総帥と決別したことを。もちろん、チームの皆も」

花織が狡くも鬼道の名前を呼ぶ。彼はそれを聞いてハッとした様に目を見開いた。そして少し嬉しそうに、慰められたかのようにぎこちなく微笑む。

「……そうだな」

鬼道はそう言って自分の脇に置いていたゴーグルを手に取る。彼は慣れた様子でゴーグルを押さえて手早く装着する。赤い瞳はゴーグルの中に仕舞われてしまった。

「すまない、もう大丈夫だ。……迷惑を掛けた」
「いいえ、迷惑だなんて思いませんよ。鬼道さんが元気になってくださるなら」

残酷なくらい優しい微笑を浮かべる花織。鬼道は先ほどとは違う意味で胸が苦しくなった。彼女を異性ではなく、純粋な仲間として友人として接することができたなら彼女の言葉は一切苦しいものではなかっただろうに。彼女の優しさは、時としても無慈悲だと鬼道は思う。

だがそれでも彼女に恋をしているのだ。誰よりも心から大事に思うのだ。


たとえ彼女が他の男を愛していようとも。

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