第9章 精神の崩落
「っ、鬼道さん……!」
「すまない、こんな顔を見られたくないんだ。……しばらくこうさせてくれ」
鬼道が言った言葉は事実でもあったが、花織の身体に触れるための言い訳でもあった。温かくて良い香りのする彼女が腕の中にあるだけで、幾分気持ちは楽になるような気がする。今は、誰かが傍にいてくれるだけで救われるようだった。数度呼吸を置いて、彼は漸く胸の中で毒づいていた気持ちを静かに吐き出す。
「佐久間と源田の手術、難しいそうだ……。医者によると怪我で生きていたのが不思議なほどだったらしい」
それほどまでに……、花織は身体を強張らせる。鬼道を除いた他のメンバーは佐久間たちが病院に搬送されてからのことは知らなかった。だが鬼道の言葉から察するに緊急手術になったのだろうか、それとも入院してからすぐに手術が必要だと診断されたのか。だがとにかく理解できるのは真帝国での戦いで、彼らの身体が酷く傷つけられたのだということだ。
「花織、俺は今まで時々思っていた。帝国学園のキャプテンとして俺は最後まで皆の傍にいるべきだったんじゃないかと」
「……」
「俺が帝国に残ってさえいれば、ふたりが影山に取り込まれることはなかったかもしれない」
鬼道は自分を責めているようだ。そんな必要はない、決して鬼道のせいではないのだから。花織はそう思いながら鬼道の背を撫でる。
「鬼道さんは悪くありませんよ。それにもしもの事なんて誰にもわかりません」
「花織……」
縋るような声色で鬼道が花織を抱きしめる。以前もそうだったが、彼は花織の前だと素直になれた。それはもちろん花織を慕っているからという理由もあったが、何より彼女が優しく話を聞いてくれるからであった。帝国にいたころから彼女は聞き上手だった。
「責める人があるとすれば影山総帥だけです。……人の弱さに付け込んで、あんなことをするなんて」
影山、その言葉で鬼道の腕に力が入る。彼は痛いほど花織の身体を抱きしめ、首筋に顔を埋める。そして憎々しげに鬼道はその名前を叫んだ。