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嫉恋

第9章 精神の崩落



***

「鬼道さん……?」

キャラバンの戸を開き、中へ入りながら彼の名を呼んだ。鬼道は自分の席に座り、両手で顔を覆っていた。彼は花織の声にゆっくりと顔を上げる。どき、と花織の胸が大きく音を立てた。

久しぶりに彼の瞳を見た気がする。誰とも似つかない彼の赤い瞳、普段はゴーグルに隠されているその瞳は今、悲しみの中に揺れていた。花織はキャラバンの戸を閉め、ステップを登る。

「……花織」
「鬼道さんが心配で……、来てしまいました」

鬼道の席の隣、以前花織が掛けていた席に花織が腰を下ろす。鬼道は困ったように息をついて、俯いた。

「風丸に嫌がられるだろう」
「彼はそんなことで何も思ったりしませんよ。……それに鬼道さんのこと放っておけません」

優しい目をして花織が言う。鬼道はこんなことが以前にもあったな、と思っていた。あの時はまだ花織が自分に好意を抱いてくれていたと思う。あの世宇子に帝国が負けた、佐久間たちが今回の件に巻き込まれるきっかけになった試合。その後に彼は花織を帝国に呼び出したのだった。

もう一度だけ頼ってもいいだろうか、このどこまでも優しい想い人に。縋ってもいいだろうか。仲間たちの中で誰よりも自分を知る、今は俺の物ではない花織の存在に。

「……俺は、お前に情けないところを見られてばかりだな」
「鬼道さんに情けないところなんてありません。あったとしても、それはきっと鬼道さんの優しさの一部です。……だから、私は情けないなんて思いません」

長い間、鬼道を想っていただけのことはある。花織の言葉は玉を転がすような声色で、彼を優しく包んだ。でもその声色にあの頃の感情は含まれていない。……それでも、たとえ汚いと言われようとも、鬼道は花織に縋らずにはいられなかった。不意打ちのような形で鬼道が花織の身体を抱き寄せる。
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