• テキストサイズ

嫉恋

第8章 届かない場所




冷酷で、風丸曰く卑怯が服を着て歩いているような男だ。自分が勝つためには手段を選ばず、そして自分の手は汚さずに他のチームを蹴落とそうとする。雷門中学も何度も彼の手に堕ち掛け、間一髪のところで逃れてきた。

花織もまた影山の被害に遭い掛けた一人だ。地区予選決勝前日、影山が鬼道を懐柔する為に、花織を誘拐し脅しの道具にしようとした。風丸のおかげでその場を助けられたものの、あの時のことは思い出すたびに震えが止まらなくなる。未だに影山のことは怖かった。元々怖いと思っていた人物であったが、今は心の底から影山に対して恐怖を抱いている。

「それだけじゃない、アイツは勝つために神のアクアを作り出した」
「神のアクア……?」

鬼道が絞り出すような声で言った。神のアクア、その単語に花織はどきりとして顔を背ける。隣で神のアクアについて解説する風丸の声を聴くと、妙な不安に襲われた。どうして彼の声は少し切なげなのだろうか。北海道で彼の告白を聞いてしまったから、何となく彼の言葉の意味を探ってしまった。

「人間に身体を根本的に変えてしまうものさ。……神の領域にまで」

神のアクア、人間の力を恐ろしくパワーアップさせてしまう飲み物。あれを使用した世宇子中学のキャプテン、アフロディは全国大会の帝国戦でゴールをも吹き飛ばした。結局それが影山の逮捕へと繋がったのだが……。

花織は固く目を伏せ拳を握る。どうしてまた影山が現れたのだろう、脱獄なんていったいどうやって……。

「花織」
「……っ」

突然触れられた手に花織が驚いて目を見開く。花織の眼前には心配そうな風丸がいた。花織の手の上に自らの手を重ね、じっと花織を見つめている。

「大丈夫か、花織」
「……うん、平気」

風丸はもちろん、花織が影山の存在に恐怖していることを知っていた。以前あんな目に遭ったのだから無理もないことだと思った。そして何より思うのは花織をもう二度と危険に晒したくない、という思いだ。

「もうあんな目には合わせたりしないから」
「一郎太くん……。ありがとう」

花織が弱々しく微笑む。自分の手を握る風丸の手の力強さに、確かに心が安らぐのを感じた。
/ 433ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp