第6章 煌めきのひととき
花織はぎゅうと拳を握った。そして無言で羽織っていたジャージを脱ぐ。
「花織!」
「監督が出ろというなら私は出る。……それに私も練習してたから。だから大丈夫だよ」
花織は強気に笑って見せる。肩ほどまでの髪を左手首に巻いていたゴムで結い上げた。ジャージをベンチに置き、風丸の元へ戻る。この姿で彼と面と向かって対面するのはきっと初めてだ。花織はじっと風丸を見つめる。
「絶対に戦力になるから」
「……」
風丸はまだ不服そうだった。花織から目を逸らし、賛成できないと言いたげな表情をするが監督の命ということもあり、何も言えないようだ。女子だから、という言葉も使えない。何せ塔子が選手として出場している。完全に手詰まりだった。
「監督の作戦に、従おう!」
それに留めを指すように円堂がパンと手を叩く。それは主に吹雪のディフェンス参加に向けられたものであったが、花織の参加に対しても向けられたものだ。それをさらに夏未が根拠づけていく。
「この試合は白恋中を守るためだけじゃない。全人類の命運がかかった大事な一戦よ」
「ああ、監督もそれを承知の上で吹雪をディフェンダーに、花織を選手として起用したはずだ。勝つために……!」
さらには鬼道が監督の言葉を援護する。もう何も言えなかった、風丸は黙って花織に視線を向ける。いつにもなく真剣な表情。だが花織がそれ以上に緊張していることに気が付いた。風丸はハッとする、花織の出場に不安を覚えているのは自分だけじゃない。彼女自身こそが誰よりも不安なはずだ。
「一郎太くん……」
そう思うと無意識のうちに花織の手を取っていた。その手が震えているのはきっと寒さのせいだけではない。彼女の揺れる瞳が自分を捕える。大丈夫だ、絶対に……。花織に怪我をさせるようなことは俺がさせないから。
「よおーし!!絶対に奴らに勝って、半田たちに勝利の報告を届けるんだ!!」
円堂が差し出した手を中心に皆が手を重ね、円陣を組んでゆく。風丸は花織の手を引いて円陣に参加した。この試合、どんなことがあっても花織だけは必ず。そんな思いを風丸は抱いていた。