第5章 心の駆け引き
「じゃあ、ちょっとこっちに来てくれるかな」
「花織」
吹雪に了解の意を伝えた花織の傍に鬼道が滑り降り、彼女の傍に停止した。思い切り彼女の言葉を遮り、先を続けさせないようにする。どういう意図があるのか、彼の表情は少しだけ固いような気がした。
「もうすぐ四時になる。マネージャーの仕事はいいのか」
「あっ、ありがとうございます、鬼道さん」
花織はハッとして思い出したようにマネージャーたちの方を振り返った。もうそこには彼女たちの姿はなかった。恐らくもう校舎に戻っているのだろう。花織も急いで戻らなければならない。花織は吹雪を向き直ると軽く頭を下げた。
「ごめんなさい、そろそろ戻らないと。また機会があればぜひ教えてください。……っわ」
そう言ってボードを外そうとして身を屈めれば、花織はよろめいてしまった。ハッとして鬼道が花織を支えようとするがそれよりも早く吹雪が花織の背に回り、両手で花織を抱きとめる。すっと彼らの眉間に皺が寄った。
「気を付けて、花織さん。……また後でね」
「ごめんなさい……。ありがとうございます、吹雪さん」
恥ずかしそうに顔を赤らめ、端的にそう言い残すと花織は急いで校舎の表へと向かって行った。吹雪はその様子を目で追い、そんな吹雪の様子を彼らは凝視していた。吹雪は花織の姿が小さくなってしまうと鬼道の方へと視線を向け、にっこりと微笑む。
「可愛いね、花織さんって」
冷たい北風が髪を揺らす。いっそう深く、彼らの眉間には皺が刻まれた。