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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎



彼は私の耳元に口を持って来て、低く甘く囁く。


「俺の事も名前で呼んでくれないか」
本当はずっと前から呼びたかった。やっと言えるんだ……。
スウッと息を吸い、深く吐いた。

「……杏寿郎さん」
師範から特別な人に変わった瞬間だ。
彼の名前を呼ぶと、そのまま耳にちうっ……と口付けをされた。


「んっ……」

耳元からゾクゾク……っと、甘い痺れが全身に伝わる。


「思いが通じた相手から名前を呼ばれると言うのはこんなにも幸せな事なのだな」

杏寿郎さんがゆっくりと私を布団に寝かせてくれる。
すると太刀掛が視界に入り、そちらに視線を向ければ炎を模った鍔(つば)が見えた。日輪の瞳と同じくらい、私が大好きな彼の”象徴”が。


「俺はここだが?」
柔らかく笑いながら、杏寿郎さんが私の視界にその顔を映す。


「目を逸らさないでほしい」
「……はい」
私が頷くと、彼の顔がグッと近づく。そうして引き寄せられるように2人の唇が重なった。


「好きだ……」
隙間なく与えられる口付けの合間から囁きが降ってくる。これが物凄く心地よい。


「ん、私も大好きです……」
彼の首に手を回して気持ちを懸命に伝えていく。けれどふと思った事がある。回している手の内、右手を彼の肩に当てた。

「どうした?」

杏寿郎さんはちうと音を響かせた後、少しだけ唇から顔を離してくれる。私は流星がもっと観たいのだ、と訴えてみた。

「さっきも言ったように、今夜はたくさん流れ星が降るんです」
「うむ」

一つ頷いた彼は、自分の真上から口付けを一つ降らせてくれた。

「ん、口付けじゃなくて…流星を観て、杏寿郎さんとの思い出を早速作りたいんです」
「ほう、それは嬉しい申し出だな」

唇に狐を描いた彼は私の左頬をそっと包み、また一つ柔らかな口付けをくれる。


「確かに今夜の流星は素晴らしい。だが、俺は……」
「あ……」

小さく声が漏れてしまった。自分の胸を真上から覆うように、杏寿郎さんが掌を置いたから。

「こうして君にたくさん触れたいんだ。ダメか?」
「ダメじゃ……ないで…あん」

今度は寝巻きの合わせ目から、するりと大きな掌が入り込んでくる。



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