第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎
「これでウソではないとわかったか?」
「……はい……」
師範がとても艶っぽい。こんな顔もするんだ。心臓うるさいな、もう少し静かにしてほしい。
「君も俺と同じ気持ちと言うなら、一緒に来てくれ」
「は、はい……」
彼は私の肩をふわっと掴んで、玄関に向かっていく。
カラカラ……と戸を開けて一旦私から離れると、脱刀して草履を脱いだ。
続けて私も草履を脱ぐと再び肩を掴まれ、向かった先は ——師範の部屋だった。
彼が襖を開けると背中を優しく押され、部屋に招き入れられた。
中には行灯のあかりがぼんやりと灯っていて、布団も敷かれている。
見た瞬間、胸の鼓動が破裂するんじゃないかと言うぐらい、忙しなくなった。
師範は日輪刀を太刀掛に置き、私を後ろからギュッ…と抱きしめてくれる。すると小柄な自分は、大きな彼の体にすっぽりと包まれてしまった。
「大分体が冷たいな……」
更に回された腕に力を込められ、彼の左頬が私の右頬にピタッとくっつけられる。
『あったかい』
冷えていた体がゆっくりと温かみを増していくのがよくわかり、私の顔にも笑みが宿っていく。
「七瀬」
後ろから名前を呼ばれると、今度は師範の方にくるっと体を向けられた。本当に背が高いな、と改めて実感。私と二十センチ近くは違うと思う。見上げる自分と見下ろす彼の視線の焦点がぴたりとあった瞬間 —— 師範の瞳の奥が燃えた気がした。
「俺の部屋に来た、と言う事はどういう事かわかるな?」
「はい……」
恥ずかしい。目をそらそうとすると「ダメだ」と言われ、顎をつかまれた。そして大きな親指でそっと唇をなぞられる。ますます高まる鼓動だ。
「これから君の全てをもらう……当然だが、朝まで離すつもりは毛頭ない」
私も同じ気持ちだ……これ、ちゃんと伝えなきゃ。
「離さないで下さい……師範」