第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎
ゆっくりと私から師範が離れていく。
彼の顔を見てみれば、先程と同じようにとても優しい表情を私に向けてくれていた。
「……七瀬、俺も君が好きだ」
彼に名前を呼ばれた。初めてだ。実感した瞬間、ドクンと一際高く心臓が跳ね上がる。
「本当に……?」
「こんな時にウソをついてどうする?」
「すみません……私の一方通行だろうなとずっと思っていたので、その……信じられなくて……」
師範も私を?どうしよう……嬉しい……涙出そう。
「態度には出していたと思うぞ?……とは言え、君の事が好きだと自覚できたのはここ最近だ。そう思われても仕方ないな」
私の目をじぃっと覗きこんでくる彼から目が逸らせない。熱量がじわっと伝わって来る。とても強い二つの眼差しだから。
「はっきり言ってくれないとわかりませんよ……女の人は言葉に出してもらって、ようやく“好き”を確信するんですから」
「そうか……」
思い人はそう呟いた後、今度はハッキリと言ってくれた。
「俺は七瀬が大好きだ」
大きな右手を私の左耳の下に差し込んだ後、再び唇で熱い思いを伝えて来る。
1回目と違い、2回目は強めに吸い付く口付けだった。
「ん……」
やっぱりさっきと全然違う。少し戸惑っていると、トントンと舌で唇を開けるように促される。
恥ずかしいけど……!
彼は私が口を開けるとすぐに自分の舌を口内に侵入させ、歯列を丁寧になぞっていく。
一通り口の中を堪能され、唇が離れ、お互いの絡まっていた銀の糸が姿を現す。
ゆっくりと視線を上に向ければ師範の緋色の双眸が先程と同じように、私を真剣にみていた。
—— 暗い夜でも日輪のように輝く ——
自分が大好きな二つの瞳だ。