第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎
これが鬼殺だったら、私はあっという間に死んでるなぁ。
「あれ?師範、任務に出かけられたんじゃないですか?」
そう私が聞けば「もう終わった」とあっさり答えが返って来て、ちょっと拍子抜けしてしまった。
怪我も全くないようで、夕方前に見送った時と一緒。良かった。私は小走りで師範の側に駆け寄った。
「ずっと見ていたのか?」
「はい!以前から見れるのを楽しみにしていたので……」と、やや興奮気味に答えを返す。
「流星群を見るのは初めてですか?」
「ああ。鬼殺をしているとなかなかこうやって星を見上げる事もないからな」
「そうですよね……」
再び夜空に視線をあげると、横にいる師範が私に聞いて来た。
「所でこれは一晩にどれくらい流れる?」
いつも冷静な彼の口調にやや興奮の色が混ざっている。どうやら興味を持ってくれているらしい。嬉しい!
気持ちが高揚した私は、前のめりになりそうなそれを何とか抑制しながら話しだした。
「しし座流星群には母天体と言って、元になる彗星があるんですけど。その彗星が太陽から遠い位置にあると、一時間に数個ぐらいしか見れないんです」
「彗星か……」
「はい。でも今日の様子だと、一時間に数千個は……流れるかもしれませんね」
「……凄いな!!」
「ええ、凄いんですよ」
私はふふっと笑う。それに太陽みたいな師範が戻って来たしね……なんて、心の中でこっそりと思う。
「君が星についてそれだけ知っていると言うのにも感心したぞ」
彼はうーむと唸って顎に手を置いている。師範のこの仕草、好きだな。
「ありがとうございます。星は小さい頃から好きなんです。天文学系の本は結構読み込んだんですよ」
それから、師範の方に向けていた顔を再度夜空に戻した。
今日こっちに泊まる事にして良かったな。心の底からそう思う。本当は自宅で観ようかと考えたりもしたんだよね。