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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎



襖を開け、彼女の背中を優しく押しながら部屋に招き入れる。
千寿郎が用意してくれた行灯のあかりがぼんやりと光っており、布団も敷いてあった。

日輪刀を太刀掛に置き、七瀬を後ろからギュッ…と抱きしめる。先程改めて感じたが、本当に小柄だ。この体でほぼ毎日、稽古や任務に励んでいると思うと愛おしさが増していく。


「大分体が冷たいな」

回した腕に更に力を込め、自分の左頬を七瀬の右頬にピタリとくっつける。すると —— 彼女の顔にゆっくりと笑みが宿っていく。安心してくれていると言う事だろうか。


「七瀬」

後ろから名前を呼んだ後、自分の方にくるっと体を向ける。こちらを見上げてくる彼女に己の欲が少しずつ表出していく。


「俺の部屋に来た、と言う事はどういう事かわかるな?」
「はい……」

恥ずかしいのか、自分から目をそらそうとする七瀬だ。
「ダメだ」と言った後、小さな顎を柔らかく掴む。そして親指で桃色の唇をゆっくりとなぞった。


「これから君の全てをもらう……当然だが、朝まで離すつもりは毛頭ない」

「離さないで下さい……師範」

この一言で。
それまで自分の中で抑えていた欲が、滝に落ちるように表に噴き出して行く——彼女の耳元に口を持って行き、こう伝えた。

「俺の事も名前で呼んでくれないか」
「……杏寿郎さん……」

………!
名前を呼ばれた。ただそれだけの事なのに、心臓がドクンと跳ね上がってしまう。そしてそのまま小さな耳に一つ口付けをした。


「んっ……」
「思いが通じた相手から名前を呼ばれると言うのは、こんなにも幸せな事なのだな」

……これは君に初めて教えてもらった気がする。
ゆっくりと彼女を布団に寝かせると、何かが気になったのか一瞬だけ視線がそれる。目線を追うと、先程自分が太刀掛けに置いた日輪刀を見ていた。


「俺はここだが?」
柔らかく笑いながら、彼女の視界に入る。

「目を逸らさないでほしい」
「……はい」

遠慮がちに頷いた君に引き寄せられるように、俺は自分の唇を彼女のそれにゆっくりと静かにあてた。

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