第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎
「すみません、急に。こんな綺麗な夜空の下にいると、気持ちがその、高まって……しまって」
真っ赤な顔を晒しながら、必死に誤魔化そうとする彼女。そのままくるりと踵を返そうとしたので、俺はその細い腕をパシッと掴んだ。
「師範?どうしたんですか??」
あそこまではっきりとした思いを聞くと、このまま行かせたくはない。そう強く思った。
「あの!聞き流して頂いてかまいませんから。私戻りますね」
……待ってくれ、沢渡………
そうして俺が掴んでいる腕から彼女が逃れようとした瞬間。ふわっと自分の腕の中にその細い体を引き寄せた。体がかなり冷たい。思わず沢渡を更に抱きしめる。
「……そう言う事は、こちらから伝えるものじゃないのか」
「こちらからって……んぅ」
最後まで言い終わらない内に、沢渡の唇を掠め取るように自分の唇で塞ぐ。
たった一度だけ。しかし、ありったけの思いを込めた口付けを彼女に贈った。
柔らかい唇。甘くこぼれた吐息。その先をもっと知りたい。
君の心に触れたい。そしてその心に秘めている物を自分に見せてほしい。
——俺だけを見てほしい。沢渡が……七瀬の事が大好きだから。
ゆっくりと目の前の相手から自分の顔を離して行くと、瞳を丸くしている彼女がいた。信じられない…と表情だけで訴えてくる七瀬がたまらなく愛おしい。
「……七瀬」
実際に声に出して、彼女の名前を呼ぶ。
「俺も君が好きだ」
本当はこちらから伝えたかったのだが、先を越されてしまった。
「本当に……?」
「こんな時にウソをついてどうする?」
「すみません、私の一方通行だろうなとずっと思っていたので、その……信じられなくて……」
信じられない、か。
「態度には出していたと思うぞ?とは言え、君の事が好きだと自覚できたのはここ最近だ。そう思われても仕方ないな」
先程の自問自答でようやく確信出来たと言った方が正しいだろうか。俺は彼女の焦茶色の双眸をじぃっと覗きこむ。