第12章 婚星(よばいぼし)、君を抱きしめる ✳︎✳︎
「ありがとうございます。星は小さい頃から好きなんです。天文学系の本は結構読み込んだんですよ」
そう言った後、彼女は俺の方に向けていた顔を再度夜空に戻した。
先程と変わらず、夜空には流星が降り注いでいる。
綺麗だな。
月並みな言葉だが、その表現がしっくり来る。流れては消え、また別の場所から星が流れては消えていく。
昨年もきっと今年と同じように流星が流れていたのだろう。沢渡がこうして観測をしていなかったら、俺はこの夜空を知らないままだったかもしれない。
「師範と一緒に観れて良かった」
「む?」
「え?」
急に発せられた彼女の言葉に、一瞬だけだが自分の思考が止まる。
「今、なんと言った?」
「うーん、私何か言いましたか?」
沢渡は自分の口から紡がれた言葉に戸惑っているようだ。
言ったぞ。確実に俺の心が反応したからな…。
「聞き間違いでなければ…俺と一緒に観れて良かったと、そう聞こえたが?」
はあ、とため息をつく彼女だ。腕組みをしながら沢渡を見つめると、ますます慌てる継子。
………継子? いや、違うな。目の前の異性はいつも俺の気持ちを心地よく揺らし、胸の中をあたたかくさせる。
ただ一人の女子だ。
いつから彼女を目で追うようになったのだろうか。
いつから「師範」と呼ばれる事にほんの少し寂しさを感じるようになったのだろうか。
いつから君を「愛おしい」「かわいい」と思うようになったのだろうか。
——— そして、自分だけに見せてくれる笑顔が見たいと…独占したいと思うようになったのだろうか。
俺は沢渡の事をいつから異性として好きだと思うようになったのだろう。
自分の胸の中で、彼女に対しての思いを改めて確認していた時だ。
「師範!」
彼女がこちらをまっすぐと見つめて、ゆっくり深呼吸を一回する。
「私、師範の事が好きです」
何だと…?
「……大好きです!」
——— 沢渡が俺の事を大好きだと言った。