第10章 恋柱・甘露寺蜜璃
「師範、あのっ!」
「何だ、どうした!………むんっ!」
「わあっ!」
杏寿郎が突きを出せば、蜜璃はすかさずその太刀を払う。
「あの!私、もう…お腹がすきすぎて、腹部と背中がくっつきそうです……甘味!甘味休憩をお願いします!ひゃっ!!」
今度は横一閃に振るわれた木刀を、下段から上段へ切り上げて躱す(かわす)蜜璃だ。
「さっき休憩を取ったばかりではないか!後たったの千回だぞ、精進しろ!」
「ひえ……」
ぐううううう、とその返答は彼女のお腹の音によって綺麗にかき消されてしまう。
「甘露寺!腹の音で返事をするな、集中しろ!! 」
その時、道場の扉がスッと静かに開けられた。入って来たのは杏寿郎の弟である千寿郎だ。
「お疲れさまです、兄上・蜜璃さん。お菓子を作って来たのですが、そろそろ休憩いかがですか…わっ!!」
「千寿郎くん!天の助けだわ、ありがとう〜〜!!」
「こらこら!まだ終わってないぞー!」
ここぞとばかりに千寿郎に泣きつく蜜璃だ。対し、杏寿郎は稽古に戻れと言って聞かない。
「兄上、さつまいもの甘味もございますよ」
「む……!」
「今日は蜜璃さんの分も作らないと……と考えていたら、いつもより気合が入りまして。たくさん拵え(こしらえ)すぎてしまいました」
「む、む……!」