第10章 恋柱・甘露寺蜜璃
「以前蜜璃さんより教えていただいた、すいーとぽてとなる洋菓子です」
「あの小さいが、素晴らしく美味な甘味か!!」
「はい!」
彼の大きな双眸が更にカッと見開かれた。
そして蜜璃に待望の「休憩しよう!」と鶴の一声が発せられる。
……杏寿郎、さつまいもに降伏した瞬間である。彼はとにかくこの野菜に目がないのだ。
「美味しい〜!幸せ〜!!無限に食べれちゃうわあ」
縁側に移動して来た三人は、右から蜜璃・杏寿郎・千寿郎の並びで腰を下ろした。煉獄邸の庭には数本の桜の木が植えてある。
それに満開の花びらが咲いている景観を目にしながら、蜜璃は景色にも甘味にも満足しつつ、大好物の桜餅をパクパクと食べている。
「桜餅もたくさんありますからね!どうぞ、いっぱい食べて下さい」
「わーい、やったあ!」
そんな蜜璃の隣で、杏寿郎は弟からすいーとぽてとが乗った小皿を受け取った。千寿郎へ礼を言った彼はまず甘味を自分の鼻へと近づけ、香りを確かめる。
さつまいも本来の匂い、それから牛酪(ぎゅうらく=バター)の濃厚な匂いが彼の鼻腔に柔らかく届いた。
「うむ、やはり良い香りだな!」
「千寿郎くん、凄いわ!一度教えただけなのに、すっかり上手に作れてて」
「いえ……ありがとうございます」
『蜜璃さんの説明を噛み砕くの、大変だったなあ』
照れている千寿郎が心の中でそのように考えるのには理由がある。
ご存知の方も多いだろうが、蜜璃は人に何かを指導すると言う事がとても苦手だ。それ故である。
「わっしょい!!」
「わーい、出たあ!師範のわっしょいだー!」
杏寿郎が一口ぱくりとすいーとぽてとを口に入れると、神輿をかつぐ時のかけ声が発せられた。