第10章 恋柱・甘露寺蜜璃
「うまい! うまい!! うまい!!!」
「すみません! 天丼おかわりをお願いします〜!」
ここは以心伝心。鬼殺隊士がよく利用する食事・甘味処である。
うまい! の三文字を連続で発しながら牛鍋定食を食べているのは杏寿郎、今しがた天丼を追加注文したのは彼の元・継子であり、恋柱の甘露寺蜜璃。
蛇柱・伊黒小芭内の思い人である。
「はあ〜! 今日の天ぷらもとっても美味しいです! あ、そうそう。煉獄さん、先日七瀬ちゃんと食事に行って来ましたよ」
「む、そうなのか!」
蜜璃と七瀬は姉弟子・妹弟子の間柄で、仲は良い。
二人がよく行く店の定食に、その日たまたまさつまいもの甘露煮が出た。そして自分が杏寿郎の継子時代によく一緒に食べた旨を伝えると、妹弟子が大層羨ましそうにしていたと言う事も話す蜜璃だ。
「ふふ、良かったですね♡煉獄さん!」
「良かった?? 何がだ?」
元・継子は何故そこまで嬉しそうに伝えるのか。
良かったと言われてもなあ…と彼の脳内にはひたすら疑問符がぷかりぷかりと、浮かび上がっている。
炎柱はやはり自分の気持ちには疎かった。
杏寿郎と蜜璃。柱同士であり、師範と継子の間柄でもあった二人。ここから暫し過去へと出来事を遡らせて貰おう。
★
これはある日の出来事である。
「どうした、甘露寺!しばらく稽古しない内に体がなまっているんじゃないのか??」
「ひっ、ひい〜!」
「情けない声を出すな!そんな様子では鬼殺隊士としてはやっていけんぞ!ほら、頑張れ!」
朝から始めた稽古は既に二時間が経過しており、現在の時刻は午前十一時半。甲(きのえ)の杏寿郎は、癸(みずのと)の蜜璃と共に煉獄家の道場でひたすら地稽古をやっていた。
因みに、甲は鬼殺隊の一番上、癸はその逆で一番下を現す階級である。