第46章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「はー……緊張する。七瀬はどうだ?」
「もちろん右に同じ!緊張するのが正しい反応だよ、炭治郎」
今日は八月三十一日。夏と呼ばれる季節の一番最後の日 — そう言って良いのではないか。まだ残暑は厳しいが、夜に鳴く虫達は確実に秋を知らせる調べに変わっているし、夜風も真夏の時より幾分か涼しげに吹く。
将門塚の石室の周りは槇寿郎が言っていたように、十二の松明で円形状にぐるっと囲まれている。
松明はアカマツの薪(まき)を二十個程縄で縛り、その下から直径十二センチのヒノキの芯が差し込んである物だ。
ヒノキの周辺を経木(きょう)で覆い、上から下にいくにつれて裾広がりの着物のように経木が広がっている。
先程石室の周りは掃除し終えた。そこから五メートル程後ろの場所に立った七瀬と炭治郎は設置されている松明を見ながら互いに緊張感を隠せずにいた。
「手首に組紐を結んだんだね」
「ああ、俺は短髪で髪を結ぶ事が出来ないから何となくここかなあと思って……」
「一緒、一緒。何か嬉しいよ」
炭治郎は白、七瀬は赤の組紐を左手首に巻いている。それらを見せ合い、少し緊張感が和らぐ会話をしていると後ろから名前を呼ばれた。
「そろそろ時間だ。君達は冨岡の所へ」
義勇が立っている場所を右掌で示し、行くよう促してくれたのは杏寿郎だ。今夜は黒の組紐で後ろの髪を1部分だけ結んでいる。
「冨岡さんも組紐は髪用にされたんですね」
「ああ、ここしか俺は思いつかなかった」
青い組紐で一つ結びにしている髪の束を二回指差す彼の姿に少しだけ七瀬も炭治郎も癒される。
大事な儀式前でも流石、柱の二人は落ち着いているようだ。七瀬が感心していると、三人人の前方十メートルの場所にいる杏寿郎が石室の前で一礼をした。
顔を上げた彼は鞘から静かに日輪刀を抜いて、中段に構える。
それからスウ…と呼吸を炎に変えると、緋色の刀身にゆっくりと紅蓮が光っていく。
「炎の呼吸・壱ノ型———不知火」
炎柱が立っている場所から横一閃の太刀を振るうと、左斜め前にある松明に炎が灯った。
時刻は二十時丁度。これが将門塚の再建、”始まりの合図” である。