第46章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「眠れない……」
布団に入ったのは一時間前—だと言うのに、七瀬は明日の事で気持ちがいっぱいになってしまい、落ち着かない状態である。
武者震い半分、残りの半分は不安と言った所だ。
杏寿郎は昨日から不在。産屋敷邸に将門塚再建の最終確認へ出向いた後、そのまま任務に行ってしまった。
“明日の朝までには戻る”
夕方手紙が届いたので、そろそろ帰宅するかもしれない。また素振りでもしよう —— 彼女はそう決めると布団の中から出て、浴衣から道着に着替え始める。
「はっー!」
七瀬は先日と同じように上段、中段、下段それぞれの位置から木刀を振っている。
夜は静かだ。虫の鳴き声がよく響くが、集中も増す。
一通りやり、次は呼吸を使って型の繋がりの素振りをしよう。そう考えていた所に彼女は名前を呼ばれた。
声の主は一人分の麦茶を盆に乗せた千寿郎であった。
「ありがとう。丁度喉が渇き始めてて、冷たい物が欲しいなあって思っていた所だったの」
「良かったです。厠に行った帰りに庭で音がしたから、素振りされているのだろうなあと思って来てみたんです。でも渡しに来ただけなので俺はこれで……」
麦茶を渡すと立ち去ろうとした千寿郎へ話がしたい”と声をかけ、留まってもらった。今は盆を間に置き、縁側に二人腰掛けている。
「ごめんね、引き止めて。どうしても千寿郎くんに聞きたい事があって」
「?俺にですか?」
「うん」
大きな双眸を見開いた千寿郎に七瀬は話をする。強い心でいれるのは何故なのか。そんな疑問を彼に投げかけた。
「強い…ですか。あまり自分ではわからないですけど」
「強いよ。槇寿郎さんも言ってたし、間違いないよ。杏寿郎さんも千寿郎くんも心が錆びない人だと思うから、羨ましい」
「錆びない……?」
首を傾げて疑問を投げかける彼に、七瀬は槇寿郎も伝えた”金は錆びない”事を話す。
「それはきっと、俺が七瀬さんの事を信じているのと同じように兄上が自分の事を信じると言って下さったからだと思います。“どんな道を歩んでもお前は立派になる” それから”兄は弟を信じている”…と」
だから”剣士にはなれない” 現実を受け入れる事が出来た。千寿郎は自分に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を発する。