第46章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「槇寿郎さん、以前のお話で申し訳ないのですけど…」
「ん?どうした?」
八岐大蛇討伐任務の際にお酒が欲しい。七瀬がそう伝えると、今すぐ継子はやめるようと槇寿郎に言われた。当時は何故そんな事を言うのか全くわからなかった。
「今回のような事が起こった時に私が悩むのではないか。そんな思いがあったから、あの時やめなさいって言って下さったのかなって…今思いました」
「………酒に溺れ、任務にも酒を持ち込み、俺は柱としての役目を放棄した。息子達への指導からも目を、そして背中さえも背けた。しかし…」
続けて槇寿郎の口から言葉が出る。
「僅かだが、自分の中に親としての情があった……まあ、今思えばなのだが。杏寿郎が炎柱になった際、報告をしに来た時もな、俺は”くだらん”と一蹴したんだ」
「ええ、継子になって間もない頃にお話を聞いた事があります」
「俺は器用な人間ではない。突き放す事によって鬼殺への道を踏みとどまってもらいたい。そうするしかなかった」
「…………」
「先程息子達は心が強いと言ったが、杏寿郎はとりわけそれが顕著だ。誰にも頼らず、自分1人だけで剣士の道を切り拓き、そして柱になった。千寿郎も鬼殺隊へ入る事は叶わなかったが、継子の君を疎ましく思わず、気遣いを向ける強さがある。瑠火に似たのだろう。俺にはない芯の強さだ」
自分が杏寿郎さんの立場なら、千寿郎の立場なら。考えてみた所で出てくる答えは一つだけだ。
自分はきっと二人のように思えないし、出来ない。何故なら自分は人を羨んでばかりの弱い人間だから。
「金(きん)は錆びない。以前亡くなった父から聞いた事があるんです。杏寿郎さんと千寿郎くんは心が錆びる、と言う事がないのかもしれません」
「錆びない心か……確かにそうかもしれない。しかし、七瀬さん。君の心も錆びないのではないか?」
そうなのだろえ。彼女は素直に疑問を槇寿郎へ投げかける。
すると——
「杏寿郎と千寿郎は君を信じると言ってくれただろう?やり遂げようとする事がどんなに困難に思えても、自分を信じてくれる存在がいるのといないのでは大きく違うぞ。俺にはいなかった。君には三人もいる」
「三人………?」
「七瀬さん、俺も君は必ずやり遂げる。そう信じている1人だ」