第46章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
七瀬は槇寿郎との話が終わり、自分の部屋に向かう途中で千寿郎が素振りをしている所を見かける。
“日輪刀の色が変わらない事がはっきりした”
彼をそのまま後ろから見つめていると、先程槇寿郎から言われた事が彼女の脳内を反芻した。
話しかけるかどうか迷っていた丁度その時、庭先にいる目の前の背中がくるりと回転し、七瀬は千寿郎から声をかけられる。
「七瀬さん。あなたにお話しないといけない事があります」
★
「はい、これどうぞ。よく冷えているよ」
「ありがとうございます」
七瀬は盆に乗せた二人分の麦茶を置き、縁側に座っている千寿郎の左隣に腰掛けた。
「……………」
「……………」
湯呑みから麦茶を飲む音だけが、二つそこに響く。
トンと盆に湯呑みが置かれ、ふう…と一つ長い息を吐き出した千寿郎。彼は静かに言葉を紡ぎ始めた。
「こうして二人でしっかりお話するのは初めてかもしれませんね」
「そうだね」
煉獄邸に住み始めて一年ニヶ月と少し。毎日のように食事を共にし、時々共に二人は買い物へ行く。
雑談はよくする七瀬と千寿郎だが、彼の言う通りこうしてじっくり話をする機会はなかなかなかったように思う。
「申し訳ありません。俺の日輪刀の色は変わりませんでした」
「うん……さっき槇寿郎さんから聞いたよ」
「そうですか……」
「うん……」
「…………」
「…………」
またしばらく沈黙が続いた。
「千寿郎くんはさ、私が疎ましくない?」
「え……どうして七瀬さんがそんな事を言うんですか」
彼の白日(はくじつ)の双眸が大きく揺れる。
「だって……」
七瀬はその先に続く言葉が出なかった。何と言ったら良いか全く思い浮かばなかったためだ。
千寿郎がまた一つ深い息を吐き出した後、こう声に出す。
「全く思いませんよ。だって七瀬さんは継子である前に、兄上が大切にされている恋人ですから。俺にとっても大事な方です」