第46章 緋星(あけぼし)喰われしその時に、心炎で天蠍を衝け ✴︎✴︎
「ねぇ、杏寿郎さん」
「どうした?」
彼女の頭上から聞こえて来るのはいつもと変わらない穏やかな声色。七瀬をまた安心させる為なのだろうか。髪をゆっくりと丁寧な手櫛でとかし始めた。
「鼓動が安定していますけど…怖くはないんですか?」
杏寿郎の心臓の位置に自分の左耳をピタリとくっつける—いつも彼女がやる動作だ。
「君は必ずやり遂げる。そう信じているから怖さはあまりないな」
「出来るでしょうか、私に」
信じてくれるのはもちろん嬉しいが、やはり不安は拭い去れない。
“十二鬼月の頸を将門塚に献上するのは、焼き印を最初に付けられた者でないと蠍の蠱毒は断ち切れない”
そのようにも記されていたからだ。本当に自分に出来るのだろうか…不安が増していく七瀬はよし、こんな時はと思い直した。
目を閉じ、自分の呼吸を杏寿郎の心音の拍動と意識的に合わせてみる。
「七瀬? どうした」
「……あっ、すみません。こうしたら気持ちが落ち着くかなあと思って、杏寿郎さんの鼓動と自分の呼吸を合わせてみたんです」
「成る程。して、どうだ?」
「絶大な効果がありますよ。やっぱり杏寿郎さんのここは私にとって勇気を貰える場所です」
右人差し指で彼の心臓をトントン…とニ回軽く押さえた後、彼女はそこへゆっくりと自分の唇を当てた。