第44章 東の緋色(あけいろ)
それから三日後。時間は二十三時を回った所だ。
今日は冨岡の警護地区の見回りに同行し、既に帰宅したと小町殿から文を受け取った。
任務が互いに無事に終わる。これはとても尊い事だ。
門扉が見えて来たな。腹は減っているが、今はそれよりも七瀬に会いたい。
「ただいま帰りました」
父と弟は就寝中の為、声量を可能な限り抑えて玄関扉を開ける。
灯りは千寿郎が寝る前につけてくれたのだろう。
鍵を閉め、脱刀をしたのち草履を脱いだ。
廊下は薄暗い為、慎重にかつ静かに歩いていく。自室に寄って日輪刀を掛け、着替えはせずに七瀬の部屋へと向かう。
彼女の部屋は南側にある。しばらく廊下を歩いているとガラス障子の鍵を開錠して縁側に腰掛けた七瀬の姿が目に入った。
夜空を見ていると言う事はきっとあれだろう。
「君は本当に星が好きなのだな」
「あっ、お帰りなさい……」
笑顔を見せてくれた彼女の所まで歩き、そのまま左隣に腰を下ろす。
「ご無事のお戻り、何よりです」
「ただいま、七瀬」
彼女の左頬を撫でながら包み、ゆっくり近づいて口付けを落とした。ふっくらと柔らかな感触が己の唇に伝わると、恋人を静かに抱き寄せた。
「会いたかった」
「……私もです。杏寿郎さん」
「ん…どうした?」
君は何を言ってくれるのだろう。抱きしめていた腕を外すと、今度は掌で彼女の両頬を包み込んだ。
「以前、槇寿郎さんにお酒を下さいってお願いした時に言われました。“継子としても、恋人としてもあなたを支えてあげてほしい”って」
「父上がそんな事を?」
はい…と頷いた彼女はこう続けた。
継子としても恋人としても支える事は難しい —— と。
「む?何故だ?」
やや眉間に皺がよるのが自分でもわかる。言葉の真意がわからないからだ。