第44章 東の緋色(あけいろ)
我が家での集まりが終わり、今は夕方——
時間は十八時を回った所だが、夏の夜が訪れるのは後三十分以上先である。
「忘れ物は杏寿郎さんに限ってないと思いますけど、気をつけて行って来て下さい。これは道中小腹が空いた時にどうぞ。夏は食材が痛みやすいので、遅くても明日の朝までには食べ切って下さいね」
俺は隊服に身を包み、今から任務に向かう所だ。
七瀬が両手程の大きさの小さなふろしきを渡してくれた。中身は竹の皮で包んだおにぎりとの事で三つ入っているようだ。
俺がよく食べる故、大きめに握ってくれたらしい。
「気遣い、助かる!有り難く頂こう」
「はい、いってらっしゃい」
そして自分の額を彼女の額ににコツン、と当てる。
残念ながら験担ぎではなくなってしまったが、いってきます、そしていってらっしゃい、のやりとりに変わりはない。
時間にして三十秒と少し。額の中心がほんのりと暖かくなった所でゆっくりと七瀬から己の顔を離す。
「七瀬の武運も願っている。では三日後に」
「ありがとうございます。私もご武運を願ってます、いってらっしゃい」
そうして彼女の頭を撫でた後、門扉から足を進める。
振り返らなくてもわかる。七瀬はいつも自分が見えなくなるまで見送ってくれるのだ。
我妻少年との任務だと聞いた。上野に出没する、子供ばかりを狙う女鬼の討伐。
時透と一度だけだったが、引き分けるまで力をつけた七瀬だ。無論油断は禁物だが、恐らく必要以上に心配するまでもないだろう。
七瀬に会えるのは三日後だ。先程まで一緒にいたと言うのにもう君が恋しい。