• テキストサイズ

沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第1章 緋(あけ)と茜の始まり



「良かったです。すれ違いになったら申し訳なかったので………あの」

彼女の口元にやや力が入るのが、自分から見てもわかる。

「それで巧の言伝と言うのは………」
「うむ」

一つ頷いた後(のち)、彼女の双眸を真っ直ぐと見て桐谷くんからの言葉を伝えた。


「剣士をやめるなよ………」
「えっ?剣士ですか?」

「ああ」
「そう、ですか………」

沢渡少女はふーっと深呼吸を一つ落とすと、顔を上に向けて天井を見つめた。瞬きが多くなったから涙を堪えているのだろう。


「俺が駆けつけた時には本当に虫の息と言った状態だった。しかしそれでも息を引き取るその時まで、君の事ばかり案じていたぞ」

「そう言う人なんです。いつも人の事ばっかり気にしてくれて……」



「考えても仕方のない事は考えるな」

「え?」

「……と言うのが俺の信条ではあるんだが。恋は簡単に割り切れるものではないのだろうな」

「そうですか?」

「ああ、君を見てるとそう思う」

瞬間、俺は彼女の頭にぽん……と手を乗せてしまう。自分でも驚くぐらいの自然な動作だった。


「大事な人を亡くしたんだ。泣きたい時は思い切り泣いても良いんじゃないか」

……俺は泣かなかった。
いや、泣けなかったのかもしれない。母を亡くした時も、鬼殺隊の仲間を亡くした時も……無論、桐谷くんを亡くした時も。


「うっ………」

彼女はボロボロ涙をこぼしながら。そして嗚咽をもらしながら泣き始めた。


「うっ………ひっく……巧………」

川が決壊してしまったようにとにかく泣き続けている沢渡少女。俺はそのまま彼女の頭を撫でながら、少しでも気持ちが落ち着く事を願う。

/ 473ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp